研究課題/領域番号 |
17K18723
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
齋藤 秀司 東京工業大学, 理学院, 教授 (50153804)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | ホッジ予想 / K理論 / リジッド解析幾何 / モチーフ理論 |
研究実績の概要 |
標数0の体 k上の一変数級数環 R=k[[t]]とその商体 K=k((t))を考える.Xは S=Spec(R)上の射影的で滑らかなスキーム,YをXの特殊ファイバーとし,制限写像 i:K_0(X)→ K_0(Y) を考える.ここで一般にスキーム Zにたいし, K_0(Z)はZ上のベクトル束の同型類全体がなす亜群(算法は直和)のGroup completionを表す(ZのGrothendieck群と呼ばれる).Grothendieckの変動的ホッジ予想とは,K_0(Y)の元αをK_0(X)に持ち上げるための必要十分条件を,αのホッヂ理論的条件によって与えるものである.名高いホッジ予想は変動的ホッジ予想を導く.アーベル多様体にたいして両者は同値である.本研究目的は変動的ホッジ予想に対する全く新しい一般的アプローチを提出することである. 整数n>0 にたいし X_n をXの特殊ファイバーYのn-th thickeningとし,Grothendieck群の逆系 K^cont_0 (X):={K_0(X_n)}_(n>0)を考える.すると 写像 i: K_0 (X)→ K_0 (Y) がK_0 (X)→ K^cont_0(X) →K_0 (Y) と分解し, α∈K_0 (Y) の持ち上げのプロセスを2段階に分けることができる.最初の持ち上げの問題を無限小変形持ち上げとよび,次の段階の持ち上げを代数化とよぶ.MorrowとBloch-Esnault-Kerzは,前者をほぼ一般的な状況で解決することに成功した.残された代数化の問題は,Grothendieckの偉業である形式的存在定理をはるかに一般化する難題でこれまで一般的アプローチは全く知られていなかった.これにたいする新しいふたつのアプローチとして、リジッド解析空間のK理論の構築およびモチーフ理論の一般化を遂行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代数的K理論は,代数多様体あるいはスキーム Zにたいし 高次代数的K群 K_j(Z) (jは整数)なる基本的不変量を与える.j=0 の場合はK_j(Z)は前述のGrothendieck群に等しい.当該研究では,リジッド解析空間に対する代数的K群の類似物を構成し,これにより上述の代数化の問題にリジッド解析幾何の手法が適用可能となる理論的枠組みの構築を行った.これを説明するために,Rを完備離付値環,Kをその商体とする.上で考察した R=k[[t]]とK=k((t))はこの例である.XをS=Spec(R)上の有限型スキームとし,X_n をXの特殊ファイバーのn-th thickening とする.高次K群の逆系 K^cont_j(X):={K_j(X_n)}_(n>0)をリジッド解析幾何を用いて解析する新理論を構成した。さらに次の成果が得られている.一般にリジッド解析空間 Mに対しその解析的K群 K_j^an (M) (jは整数) が(pro-abel群として)定義されて,M が前述の スキームX のformal completionに(Raynaudの意味で)付随する対応リジッド解析空間のとき K_j^an(M)と K_j^cont (X)が(ほぼ)同型である.さらに自然な射K_0(X)→K_0^an(M)は同型である.
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今後の研究の推進方策 |
代数化の問題への別のアプローチとして、モチーフ理論の一般化を行うことを計画している。モチーフ理論とは,1970年代にGrothendieckがその構想を打ち出して以来,哲学的指導原理として多くの優れた研究を導いてきた(例えばDeligneのWeil予想の解決や混合Hodge構造の理論もそのうちである).Beilinsonは,Grothendieckのモチーフ哲学をより正確に予想として定式化した.VoevodskyはBeilinson予想の部分的解決に成功した.少なくとも正則なスキーム にたいしては, 期待された性質を持つモチーフ理論が構成できることを示したのである.この業績により彼にフィールズ賞が与えられたことからもモチーフ理論がいかに重要視されてきたかがわかる.しかし,変動的ホッジ予想への応用に必要なのは必ずしも正則とも(それどころか被約とも)限らないスキーム X にたいするモチーフ理論の構成が求められる.研究計画は,Voevodskyのモチーフ理論をより広範な枠組みへと拡張し,Voevodskyの理論では不可能だった新たな応用をもたらすことである.具体的にはVoevodskyのモチーフ理論の基盤であるホモトピー不変性層の理論を相互層の理論に拡張し,これを用いてVoevodskyのモチーフの圏を拡張する相互モチーフの圏の構成を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の研究の進捗が予定よりも早まったので,来年度の研究計画の一部である「Voevodskyのモチーフ理論の基盤であるホモトピー不変性層の理論を相互層の理論への拡張」を本年度に前倒して行う予定で前倒し請求を行ったが、このために当初予定されていた研究打ち合わせが都合により次年度に行われることになり当初の前倒し請求額をこのために使用することになった.
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