研究実績の概要 |
これまでの研究により、箱玉系とよばれる可積分系をある種の連続系に拡張し、その力学系をPitman変換を用いて記述をした。これにより今までは状態数が有限の範囲しか扱えなかった対象が、無限個の状態をもった力学系を与えたことになる。今年度は、さらに量子化された力学系の研究を行った。これまで扱ってきた力学系では、ある状態から次の状態への移行の決定はその初期状態の近傍のみのデータで与えられる。この性質を作用素に対応させたものが量子ランダムウオークと呼ばれる。具体的にはユニタリ作用素を無限行列で表示した時に、0でない成分はたかだか対角線から一様に有界な領域に含まれるものである。スカラーの場合には、通常の有理演算と(max,+)代数の対応を与えるものがトロピカル幾何学であった。Grossら物理学者達はその量子版に相当するものとして、量子ランダムウオークと量子セルオートマトンを導入した [1]。この量子版トロピカル幾何学に関して、幾何学的な研究はこれまでほとんど行われてきていないと言って良い。そのためここではまず量子ランダムウオークを定めるユニタリ行列全体の位相的性質を調べることを行い、特にそのホモトピー型を決定した。その成果をまとめた論文を現在作成中である。今後は、そのようなユニタリ作用素を構造群にもつバンドル理論の構成を行うこと、また量子セルオートマトンでも対応する研究を行い、最終的にはトロピカル幾何学の手法を用いて両者の比較解析を行うことが目標となる。 [1] Index Theory of One Dimensional Quantum Walks and Cellular Automata, D.Gross, V.Nesme, H.Vogts and R.Werner, Commun.Math. Phys., 310, 419-454 (2012).
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