研究課題/領域番号 |
17K18734
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 自由確率論 / 量子情報理論 |
研究実績の概要 |
次の2つの成果を上げ, プレプリントととしてarXivへ投稿した. 1. 研究代表者とその博士課程学生Felix Parraud氏でプレプリント(arXiv:2012.00159)を作成した. 量子チャネルの最小出力エントロピーの加法性の破れ(MOEの破れ)は量子情報理論において非常に重要な問題である. これがMOEの破れが起こることはランダム行列を用いた方法が有効であり多く研究されている. しかしその評価はまだシャープになっていない. MOEの破れがいつ起こるかをできるだけ具体的に示すことが応用上求められている. 本研究課題では確率論における測度集中の評価をより精密に行うことにより, ランダム行列を用いたモデルであるランダム量子チャネルの加法性の破れを引き起こすために必要な入力空間の明示的な最小次元を得た. これまでの研究では加法性の破れが起きること自体は分かっていたが, そのサイズについて明示的な最小次元は見つかっていなかった. 量子情報理論における応用においてその明示的な値が必要になり, 未解決問題となっていた. この未解決問題を解決した結果となっている. 2. 研究代表者とLeonard Cadilhac氏(オルセー大)との共同研究(arXiv:2103.02944)を完成させた. このプレプリントでは自由独立性とよばれる自由確率論特有に現る独立性を確率変数が持つときの必要十分条件を距離によって特徴づけすることを行った. これも量子情報理論に深い応用を持つ結果である. 自由独立性の距離による特徴づけは量子情報理論の設定を拡張する上でキーになるであろう量子エキスパンダーの定義に使用される作用素に関わる問題であるためである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Sang Gyun Youn氏(ソウル国立大)とMichael Brannan氏(テキサス農工大)を京都大学に招聘し, 量子群の量子チャネルへの応用を集中的に議論し, 研究を加速する予定であった. しかし, 昨年度はコロナ禍の影響でその招聘は実現できず, 対面での議論が出来なかったため, その部分の共同研究が遅れている. また, コロナ禍の直前の昨年の京都訪問中に始まったMatthew Kennedy氏(ウォータールー大)との共同研究も同様の理由で進行が遅れている. どちらの共同研究についても, e-mailやzoomを介して共同研究打ち合わせを継続しているが, そのペースは当初期待していたよりも遅いものとなっている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題計画はコロナ禍の状況がどのように変化するかによって大きく変わると思われる. 海外にいる共同研究者らは既にコロナワクチン接種を受けており, ワクチン接種証明があれば招聘が許可されるような状況が生まれれば, すぐに招聘を再開できるよう準備している. 日本国内ではワクチン接種にはもう少しし時間がかかると見込まれる. 状況が許せば今秋以降に海外研究機関を訪問することトップレベルの研究者を招聘することを再開したい. それまでの間は国内における共同研究者(福田素久氏(山形大)、松本詔氏(鹿児島大), 佐久間紀佳氏(愛知教育大)、植田優基氏(北海道教育大))との研究連携を優先して推進していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で予定していたBrannan, Youn, Mageeらを招聘する予定だったが取りやめたため. 彼らの招聘を2021年度夏以降に再調整する予定である. 招聘が叶わない場合は日本人研究者の招聘を優先する.
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