本研究の対象である水の波は,重力場の下での非圧縮かつ非粘性流体の渦なし流に対する自由境界問題として偏微分方程式系によって数学的に定式化される.その水の波の基礎方程式系は変分構造をもつことが古くから知られており,水面の振幅および速度ポテンシャルを用いて Lagrangian を書き下すことができる.その速度ポテンシャルを鉛直方向の空間変数に関する多項式で近似し,その近似 Lagrangian に対する Euler-Lagrange 方程式を磯部‐柿沼モデルと呼ぶ.また,密度や温度が異なる層状の水の界面に生じる波は内部波あるいは内部界面波と呼ばれ,水の波の多層モデルとして数学的に定式化される.その内部波の基礎方程式系も変分構造をもち,その近似 Lagrangian に対する Euler-Lagrange 方程式を柿沼モデルと呼ぶ.本研究では,その水面波に対する磯部‐柿沼モデルと内部波に対する柿沼モデルを数学的に解析した. 2021年度は,まず柿沼モデルが高次浅水波近似になることの幾つかの証明を試みた.内部波の基礎方程式系に対する初期値問題は非適切な問題であるため,解の近似という数学的に厳密な形での誤差評価を与えることは困難である.その代わりとして,柿沼モデルの解が元の基礎方程式系を近似的に満たすという意味での誤差評価を,また,両者の Hamiltonian の差の評価を,浅水パラメータδに関する冪として理論的に与えた.なお,δは平均水深と代表波長の比で表される無次元パラメータである. 次いで,磯部‐柿沼モデルの平面的な周期進行波解の存在を分岐理論を用いて示した.理論的に証明できたのは小振幅な解のみであるが,大振幅な解やその極限波の存在を数値的に確認した.
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