研究課題
近年、磁性体中に磁気スカーミオンと呼ばれるトポロジカルスピンテクスチャーが発見され精力的な研究が進められている。現実の磁性体ではスカーミオンは三角格子を形成するが、この格子中を伝わるマグノン(磁気モーメントの素励起)の分散は、各バンドが異なるトポロジカル数を有する非自明なトポロジカルマグノン分散であると理論的に予想されていた。本研究の目的は小角低エネルギー領域中性子非弾性散乱法によるトポロジカルマグノン分散の検証である。2017-2018年度の研究ではMn(Si,Ge)固溶系の単結晶育成およびそれを用いた予備的マグノン測定を行った。最終実験は2018年度中に予定していたが、米国ORNLの原子炉が停止するなど不運にも見舞われ研究期間の1年延長を余儀なくされた。2019年度においてはMnSi および Mn(Si,Ge)に加え、(Mn,Ir)Si 固溶系の単結晶育成を行い、これらの中性子非弾性散乱実験を行った。なお、結果的に ORNL 原子炉は2019年度後半まで再稼働が遅れ実験の目処を立てることが難しかったため、最終実験はオーストラリア ANSTO に設置された SIKA 三軸型分光器を用いて行った。実験ではスカーミオン格子に対する逆格子ブリルアンゾーン中の代表的な数点について、スカーミオン相、ヘリカル相、並びに強制強磁性相における磁気非弾性散乱スペクトルを取得した。この結果、スカーミオン相において、ヘリカル相とも強制強磁性相とも異なる新奇な磁気励起スペクトルを観測することに成功した。この励起は当初予想していたよく定義されたトポロジカルマグノン磁気励起とは異なる様相を示しており、有限温度におけるスカーミオン格子中の個々の磁気モーメントの集団運動を特徴づけるものとして大変興味深い。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 9件、 招待講演 5件)
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