研究課題/領域番号 |
17K18746
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 初果 東京大学, 物性研究所, 教授 (00334342)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | プロトン伝導 / 分子性物質 / 分子ダイナミクス / 水素結合ネットワーク / 酸塩基性 |
研究実績の概要 |
次世代のクリーンなエネルギー社会へ向けて、水素から電気エネルギーを取り出す燃料電池に注目が集まっている。現在、燃料電池の電解質として、液漏れがなく環境調和型で、中温度域でも利用できる無水の有機固体プロトン電解質の研究が必要とされている。 近年の有機プロトン伝導体の研究で、伝導を担う分子の運動によるプロトン拡散の促進、および水素結合ネットワークの多次元性が重要であることを見出している。そこで、 本課題では、分子運動および水素結合ネットワークの多次元化を行い、プロトン拡散を促進し、燃料電池に必要とされる室温で0.01 S/cm以上を達成するために、 (1)純有機柔粘性結晶を対象としてプロトン伝導体を設計・合成し、(2)3次元に水素結合が広がった結晶について、結晶構造とプロトン伝導性(温度依存性、周波数依存性)の相関より伝導機構解明を行い、(3)超プロトン伝導の開拓に挑むことを目的とした。 具体的には、高温で超プロトン伝導性を示す無機リン酸塩MH2PO4 (M = K, Rb, Cs)のMをアルカリ金属から有機カチオンにする分子設計を行った。昨年度は、ジメチルダブコカチオン(DMDABCO2+)を導入した (DMDABCO)(H2PO4)2 、そして本年度は、メチルイミダゾールカチオン(MImH+)を含む(MImH)(H2PO4)を作製し、各々プロトン伝導性を調べ、比較検討した。その結果、低温では(DMDABCO)(H2PO4)2の方が、そして高温では逆転して、(MImH)(H2PO4)の方が、顕著にプロトン伝導度が上回ることを明らかにした。これは、低温では緩い水素結合型リン酸ネットワークによりプロトン伝導が支配されるのに対して、高温では、有機カチオン(MImH+)の寄与でプロトン伝導度が促進されることが、結晶構造と赤外分光から示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高温で超プロトン伝導性を示す無機リン酸塩MH2PO4 (M = K, Rb, Cs)に注目し、Mのアルカリ金属を有機カチオンに置換することを目指し、昨年度はジメチルダブコ塩である(DMDABCO)(H2PO4)2 、そして本年度は、メチルイミダゾールカチオン塩である(MImH+)(MImH)(H2PO4)を作製し、構造とプロトン伝導度を比較検討した。その結果、有機カチオンを生かしたプロトン伝導が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
無水有機プロトン伝導体では、有機カチオンの分子ダイナミクスが重要であることが示唆されたが、プロトン伝導は10^(-6)Scm-1と、目標の10^(-2)Scm-1にはまだ遠い。さらに、低温でも分子のダイナミクスが効く有機カチオンを用いることが次のステップであるので、今後はさらにこの分子設計を踏まえて、無水有機プロトン伝導体を作製し、系統的な構造と物性の相関を研究する予定である。
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