本研究は市販の希釈冷凍機で到達可能な温度(~50mK)より低温の超低温領域(~1mK)まで強相関電子系研究を拡張するための技術開発を目的としている。今年度は以下のような進展があった。 (1)小型ポメランチューク冷却セルの運転テスト:超低温実験の迅速化と簡易化を可能にするための小型ポメランチューク冷却セルの組み立てが完了し、その運転テストを行った。その結果、設計通りに低温でベローズが稼働することを確認することができた。一方、ヘリウム3の加圧に用いるヘリウム4の導入ラインを通じた熱流入が想定より大きかった事に加えて、冷却された液体ヘリウム3と実験空間との間の熱接触も想定より弱く、最低温度の確認をするまでには至らなかった。しかし、ヘリウム4ラインの熱流入を減少させるための熱アンカーの追加と、液体ヘリウム3との熱接触を改善させるための銀シンターの増強を行うことでこれらの問題を解決できる見通しが立っており、小型ポメランチューク冷却セルの開発はほぼ完成したと考えている。 (2)CeCoIn5の超低温NMR測定:昨年度のCeCoIn5におけるNMR測定を異なる磁場下で行った。昨年度に行った熱接触の改良によってより高精度のNMR測定が可能になった。さらに、本年度導入したNMR測定装置によって測定の自動化が可能になり、広い温度磁場範囲におけるNMR測定を効率的に行うことが可能になった。その結果、より低磁場におけるNMR測定では縦磁気緩和率の温度依存性に相転移による臨界発散を示唆する結果を得ることに成功し、より高磁場におけるNMR測定ではスピンエコー信号強度の温度依存性を明瞭に確認することに成功した。現在、これらの研究成果の論文執筆を行っている。
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