研究課題/領域番号 |
17K18751
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤澤 利正 東京工業大学, 理学院, 教授 (20212186)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2023-03-31
|
キーワード | フォノニック結晶共振器 / 電子フォノン結合系 / 量子ナノデバイス |
研究実績の概要 |
本研究「フォノニック結晶共振器による電子フォノン結合系」では、人為的に作製したフォノニック結晶によりフォノン分散関係を変調することや、フォノンを狭い空間に閉じ込めたフォノン共振器構造を用いることにより、電子格子相互作用を積極的に活用し、コヒーレントに結合した電子フォノン結合系を創生することを目的として研究を進めている。具体的には、AlGaAs/GaAs変調ドープヘテロ構造などの半導体表面に、人工的に設計された金属周期構造を作製することにより、表面フォノン(表面弾性波)を用いたフォノニック結晶を作製する。人工的に設計されたフォノン分散関係、人為的な欠陥によるフォノン共振器中に、二次元・一次元・零次元の低次元電子系を作り込むことにより、フォノンと電子の結合系を実現し、電子系の輸送特性やフォノンの伝搬特性などを評価することにより、電子フォノン結合系の研究を進めている。 令和3年度は以下の研究を進めた。表面弾性波ポテンシャルの進行波を用いて、量子ホール状態にある電子系の単一電荷輸送の可能性について研究を進めた。特に、分数量子ホール系での実現により、単一エニオン輸送が可能になると見込まれる点で興味深い。まず、整数量子ホール系での実現が第一段階である。コルビノ型の試料を用いることで、単一電荷輸送による微小電流を検出できる素子を設計し、電子線リソグラフィーによる素子の試作を行った。低温での輸送特性により、表面弾性波によって電荷輸送を誘起できること、ゲート電圧の調整によりゲート電極直下の電荷輸送を変調できることなどを見出した。現状の試料では量子化電流の観測には至っていないが、素子構造の最適化などにより単一電荷輸送の実現を目指す。また、フォノン場を量子ドットに集中するためのフォーカシング共振器構造の検討や、量子ホールエッジに注入されたホットエレクトロンのフォノン散乱についての研究も進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、量子ホール系における表面弾性波励起電流の実験について集中的に研究を進めた。ランダウ占有率が整数付近の量子ホール系は、バルクは絶縁化され、エッジによる伝導が支配的になるが、表面弾性波ポテンシャルによってバルク中の電荷輸送を実現することで、両側のエッジ間に単一電子電流を誘起することを目標とした。この手法は、分数量子ホール系に拡張することで、分数電荷エニオンの周期的輸送技術に繋がる点で発展性が見込まれる。この技術を確立するには、コルビノ型試料の中で、内側と外側のエッジが絶縁されている状態を用い、内側から外側に向けて(またはその逆向きで)表面弾性波を照射する必要がある。実験ではこのような試料を設計・作製し、低温に冷却して、表面弾性波誘起のポンプ電流を測定した。設計された周波数で、表面弾性波が励起できることをベクトルネットワークアナライザで確認し、コルビノ型量子ホール素子にポンプ電流が現れることを確認した。この素子には、細線状の輸送領域を形成するためのゲート電極が設けられており、十分に細い輸送領域と十分に深い表面弾性波ポテンシャルによって、単一電子輸送が可能になると考えた。実際、ゲート電圧に印加する電圧を調整することで、ポンプ電流が変化する様子を確認した。これらの結果は、本提案の実現可能性を示唆している。しかし、測定した素子では、バルクを流れる電流が十分に抑制されていないこと、内側から外側へのポンプ電流と外側から内側へのポンプ電流が共存していることなどの課題があることを確認した。課題の克服の検討を進めており、今後の発展性を期待する。また、フォノニック結晶共振器による電子フォノン結合系に関して、フォノン場を量子ドットに集中するためのフォーカシング共振器構造の検討を進めた。さらに、量子ホールエッジに注入されたホットエレクトロンのフォノン散乱についての研究も進めた。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度の結果をもとに、フォノニック結晶共振器による電子フォノン結合系の研究を進める。以下の各テーマについて、半導体素子の設計、半導体ナノリソグラフィーによる素子作製・極低温での高周波実験による表面弾性波測定によって、フォノニック結晶共振器による電子フォノン結合系の研究を進める予定である。 量子ホール系における表面弾性波励起電流の実験については、バルク電流と表面弾性波ポンプ電流、内側から外側へのポンプ電流と外側から内側へのポンプ電流を区別して測定する手法を開拓して、素子特性を明らかにする。さらにバルク電流を抑制できるような素子構造を設計・作製する。これらの施策により、単一電子輸送の実現を目指す。 GaAs上のTi薄膜やTi/Au薄膜を用いたフォノン共振器構造・フォーカシング共振器構造について検討・試作を続ける。特に、フォノン場のフォーカシング特性を直接的に測定するための素子構造として、局所的なポテンシャルを時間分解で測定する手法を採用して、素子の設計・作製を行い、フォーカシング共振器の特性を評価する。さらに、弱結合領域で期待される電子フォノン結合系に関する研究を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、COVID-19の影響により、実験研究が停滞していた時期が生じたこと、世界中での部品不足により所望の物品購入が行うことができなかったことなどにより、次年度使用額が発生した。令和4年度は、表面弾性波共振器・フォーカシング型共振器の設計・製作のための材料費、電子ビーム露光や電子顕微鏡の利用料、希釈冷凍機の測定系の改良、液体ヘリウム購入の費用に充てる。
|