研究課題
本研究は、一軸応力、電場、および超格子構造という空間反転対称性を破る外部パラメータを用いることにより、トポロジカル相転移の連続制御を行うことを目的とする。本年度は「極低温引張圧縮セル」を購入し、一軸応力下で輸送特性やSTM測定などを行うためのシステムを立ち上げた。これと並行して,トポロジカル相転移の舞台となる物質系の研究および微視的測定手法としてのSTM測定を進めた。具体的には、(1)重い電子系トリコロール(三色)超格子、(2)MBE-STMを用いたその場STM測定、(3)スピン液体候補物質におけるトポロジカル励起、である。(1)3種の異なる物質を交互積層した超格子構造を作製することにより、グローバルな空間反転対称性を破る超伝導物質を人工的に作製することに成功した。バルク物質では実現されてこなかったヘリカル超伝導相の実現を示唆する結果が得られた。さらに空間反転対称性の破れの度合いを人工的に制御することができ、理論的に示唆されている空間反転対称性の破れた物質におけるトポロジカル超伝導の開拓に先鞭をつけるものである。(2)独自のMBEを用いた希土類化合物薄膜作製技術とSTM測定装置を組み合わせたMBE-STMシステムを立ち上げ、薄膜のその場電子状態観測を行った。重い電子系超伝導体の不純物効果を調べ、不純物周りの局所電子状態は銅酸化物高温超伝導体とは大きく異ることを見出した。バルク物質では困難であった広い原子レベルで平坦な面が得られており、エッジ状態を観測する上で非常に強力なシステムであることが実証された。(3)スピン液体候補物質であるハニカム格子RuCl3及びパイロクロア格子Pr2Zr2O7の熱輸送特性を調べ、それぞれマヨナラ粒子、フォトン、電気・磁気モノポールといった創発準粒子励起を示す強い証拠が得られた。なかでもマヨナラ粒子、電気モノポールはトポロジカルな準粒子励起である。
2: おおむね順調に進展している
次年度以降はこれまで対象としてきた物質系において空間反転対称性の破れを導入し、すでに構築されたシステムを用いて測定を進めていくことで、目的とする「空間反転対称性の破れに伴うトポロジカル相転移の探索と制御」が達成できるものと考えられる。一方で、当初の計画にあったカイラルエッジ電流の検出手法としての微小SQUID磁束計の開発も行っていたが、目的とする分解能が得られておらず、開発途中の段階にある。次年度も開発を続けるものの、主目的である「トポロジカル相転移の探索と制御」の研究に注力する方針である。
研究はおおむね順調に進展しており、当初の計画通りに研究を推進する方針である。具体的には、重い電子系超伝導薄膜によるトポロジカル超伝導相の実現、トポロジカル超伝導相エッジ状態の走査型トンネル顕微鏡による直接観測、電場による重い電子系超伝導状態の制御、接合におけるトポロジカル超伝導相の探索、である。
今年度は主に「極低温引張圧縮セル」の購入、マシンタイム確保のための装置類の購入、消耗品の購入に研究経費を充てる予定であった。「極低温引張圧縮セル」の購入は予定通りであったが、本研究とは無関係の研究プロジェクトのために研究グループでの装置類の確保が進み、マシンタイムを十分に確保することができた。そのため、装置類の購入はせず、消耗品には当初の予定額通りに支出した。したがって、備品購入が必要なくなったため、次年度使用が必要となった。次年度は測定に注力できる環境が整ったため、液体ヘリウムを含む消耗品費および旅費に充てる計画である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 87 ページ: 034702-1~4
10.7566/JPSJ.87.034702
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Physical Review Letters
Physical Review B
巻: 96 ページ: 174512-1~10
10.1103/PhysRevB.96.174512
http://kotai2.scphys.kyoto-u.ac.jp/index.php?Highlights#res35