相転移や相分離にともなって物質の対称性は低下し、低温側の秩序相では様々な内部構造が現れ、濃度・密度・秩序度・歪などの空間変化と関係し、試料中に物理量の空間不均一性を作る。光学顕微鏡は対物レンズと結像レンズにより、空間変化した物理量と結合する屈折率の空間不均一性を実空間で像に変換し、物質の内部構造を観測する有効な手段である。ところが、ソフトマターのうちでも、ガラス・ゲル・臨界液体・過冷却液体といった仲間は、液体と同じ等方的な対称性を有し、密度・濃度・秩序度・歪などの物理量が空間に一様で不均一性がなく、光学顕微鏡では内部構造や物性の本質を明らかにすることができない。一方、これらの物質では「動的不均一性」と呼ばれる「動的構造」が、本質的重要な役割を担うことが最近の理論的研究から判明してきた。しかしながら、動的不均一性は静的不均一性を可視化できる原理はなく、本研究ではこの測定法の欠落を補う新しい顕微鏡の原理と試作を行う。すなわち、通常の顕微鏡の光学系に、ピンホールを挿入し、コーヒーレントなレーザー光で斜め照明することで、全く新しい顕微鏡となることを利用して、物質中の動的な不均一性を像として得る「揺らぎ顕微鏡」を構築する。2年間の研究期間において、動的不均一性のスナップショットを得るべく、揺らぎ顕微鏡の基本設計と試作を行い、液晶試料に物理的なマスクを施した試料、部分的にゲル化を施したネマチックゲル試料をモデルとして動的不均一性の静止画像を得ることに成功した。また、液晶ナノミセル溶液を水中に滴下した過渡的試料を用いて動的不均一性の時間変化を観察することに成功した。現時点において、動的不均一性のスナップショットを記録することに初めて成功した。空間解像度(~100μm)や時間分解能(10msec以上)には制約があるが、十二分に「動的不均一性」のリアルタイム観察結果をえることができた。
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