研究課題/領域番号 |
17K18756
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新見 康洋 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (00574617)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 超伝導材料・素子 / ジョセフソン接合 / トポロジー / スピン蓄積 |
研究実績の概要 |
物性物理学は、量子力学的な効果を顕著に観測できる舞台であり、固体中の自由電子がその主役を担う。電子の波としての性質に着目すると、波の振幅は電子の存在確率を表すが、波には位相の自由度もある。通常、位相は直接的に観測、制御することは容易ではないが、超伝導ジョセフソン接合では、位相が重要な役割を果たす。しかし、これまでの超伝導ジョセフソン接合の研究では、位相は0もしくはπの2値に限られており、自由に制御できていない。 そこで本研究課題では、BiとNiの二層薄膜超伝導体を用いて、超伝導ジョセフソン接合の位相を、スピン蓄積で自在に変調する、位相可変ジョセフソンを創製する。さらにスピン緩和時間の飛躍的な増大を観測して、BiNiがp波スピン三重項超伝導体であることを実証し、最終的には超伝導ギャップの異方性を取り入れた、位相可変トポロジカルジョセフソン接合を創製することが最終的な目標である。 スピン蓄積でジョセフソン接合の位相を自由に変調することを目指して、昨年度は超伝導体BiNiと非磁性体Cuを用いてジョセフソン接合を作製した。超伝導体間の距離が1マイクロメートル程度になるとCu部分も超伝導転移を示すことが分かった。またBiNiがp波スピン三重項超伝導体であることを実証するために、スピン輸送実験を行い、超伝導転移温度以上ではあるが、スピン緩和時間を算出した。 今年度は、非磁性体Cuの部分に強磁性体を付けて、スピン蓄積でジョセフソン接合の位相を連続的に変化させることを目指す。また超伝導転移温度以下でのスピン緩和時間の測定を行い、異方的超伝導の特性を加えた新しいジョセフソン接合の機能を開拓する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、共同研究を行っている中国復旦大学のXiaofeng JinグループからBiNiの2層薄膜の提供を受けるところからスタートした。電子線リソグラフィーとアルゴンイオンミリングを用いて、マイクロメートルサイズのBiNi素子を作製し、4 Kで超伝導転移することを確認した。その後、2つのマイクロメートルサイズの超伝導BiNiを架橋するように、非磁性体Cuを取り付け、架橋するCuの長さを変化させながら、ジョセフソン接合の臨界電流を測定した。BiNi間の距離が1マイクロメートル以上になると、Cuの部分は超伝導にはならないこと、逆に1マイクロメートル以内であれば、架橋するCu部分も超伝導状態になり、理想的なジョセフソン接合ができることが分かった。 またBiNi薄膜がp波スピン三重項超伝導であることを示すために、ジョセフソン接合ではなく、BiNi薄膜を細線にして、スピン輸送測定を行った。超伝導転移温度以上ではあるが、スピン緩和時間を算出することができた。 昨年度までに、BiNiの基本的な特性である、超伝導臨界電流やスピン緩和時間などの知見が得られたことから「(2)おおむね順調に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、スピン蓄積を伝搬させるCuの先に、強磁性体細線を取り付け、非局所的に電流を流し、Cu細線にスピン蓄積を生じさせる。スピン蓄積が減衰するまでの距離の範囲内に、上述したBiNiジョセフソン接合を配置し、ジョセフソン接合の臨界電流を測定する。臨界電流のスピン蓄積依存性を観測することで、ジョセフソン接合の位相を調べることが可能となる。 さらに今年度は、BiNi薄膜がp波スピン三重項超伝導であることに着目した実験も行う。昨年度の研究では、超伝導転移温度以上のスピン緩和時間の測定を行ったが、今年度は超伝導転移温度より十分低い温度でスピン緩和時間を測定する。p波スピン三重項はスピンが揃ったクーパー対を形成するため、スピン偏極した状態と相性が良い。したがって、過去に申請者らが行ったs波スピン一重項と比べ、超伝導転移温度以下でのスピン緩和時間の飛躍的な増大が観測される。 最終的にはp波スピン三重項の特徴である超伝導ギャップの異方性を活かした、新しいジョセフソン接合を創製する。
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