研究課題
物性物理学は、量子力学的な効果を顕著に観測できる舞台であり、固体中の自由電子がその主役を担う。電子の波としての性質に着目すると、波の振幅は電子の存在確率を表すが、波には位相の自由度もある。通常、位相は直接的に観測、制御することは容易ではないが、超伝導ジョセフソン接合では、位相が重要な役割を果たす。しかし、これまでの超伝導ジョセフソン接合の研究では、位相は0もしくはπの2値に限られており、自由に制御できていない。そこで本研究では、BiとNiの二層薄膜超伝導体を用いて、超伝導ジョセフソン接合の位相をスピン蓄積で自在に変調する、位相可変ジョセフソンを創製することを目的とした。まずBi/Ni薄膜超伝導体のスピン輸送特性を調べるために、強磁性体とBi/Niからなるスピンホール素子を作製し、常伝導状態でのスピンホール効果とスピン拡散長の測定を行った。その結果、10 KでBi/Niのスピンホール角は0.8%となり、強いスピン軌道相互作用をBiが含まれているにも関わらず、値はPtに比べて小さいものとなった。一方、Bi/Niのスピン拡散長は10 Kで3 nm程度となり、こちらは単体Biの値に比べて、一桁程度小さい値が得られた。これは、Ni層が磁性を持っていることと定性的に一致する結果となった。上記の内容に関してはApplied Physics Express誌への掲載が決定している。さらに上述のスピンホール素子を超伝導転移温度(4 K)以下に冷却して、逆スピンホール効果を測定したところ、通常のs波超伝導体で観測されているような信号の増大を観測した。ただし、s波超伝導体の場合と違って、その形状は常伝導状態のものと大きく異なる。現在その原因について解明中である。またBi/Niを用いたジョセフソン接合素子の作製も行った。現在、ジョセフソン接合素子とスピンホール素子を組み合わせた研究を継続中である。
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Physical Review B
巻: 99 ページ: 014403-1~6
https://doi.org/10.1103/PhysRevB.99.014403
Applied Physics Express
巻: 11 ページ: 053201-1~4
https://doi.org/10.7567/APEX.11.053201