研究課題
当初計画の通り、低融点金属であるビスマス(Bi)の表面疑似液体層(QLL)の作製とその電子状態の観測を目指し、試料表面を段階的に加熱しながらその原子構造および電子状態の観測を行った。前年度までの観測から、450 K 程度までの加熱ではBiは表面近傍においても融解しないことが明らかになっていたが、今年度はさらに昇温し、3次元結晶の融点である550 K 直下までの原子構造を観測した。550 K 直前までQLL形成に由来するような2次元的な電子回折パターンは観測されず、試料温度が融点を超えると即座に全ての電子回折点が消失した。その後ゆっくりと結晶を冷却したが、3次元結晶構造を反映した電子回折パターンは方位がずれた状況で復帰したものの、QLLに対応するような電子回折は見られなかった。残念ながら、Bi単結晶は極めて「融けにくい」物質であり、QLL層を安定して形成することは現状の実験環境では不可能であるとわかった。一方、昨年度に発見した400 K を超える温度領域の表面電子状態の変化について、角度分解光電子分光によって詳細に調査を進めた。すると、2次元的な表面電子状態と3次元的な結晶内部(バルク)電子状態の結合関係が室温付近を境に反転していることが明らかになった。これはBi単結晶が温度変化によりトポロジカル半金属から通常半金属へ変化する、トポロジカル相転移が発生したことを示唆する結果である。この成果については論文を投稿・発表した。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、Bi単結晶の温度変化によるQLL層の作製は残念ながら不可能であった。ただし、多くの他物質とは異なり、QLLを作製できなかったという事実自体がBi単結晶の特異性のひとつではあると考えられる。一方、高温に保ったBi単結晶の表面電子状態の調査により、当初は予測されていなかったトポロジカル相転移と考えられる興味深い現象を発見した。以上のように、当初計画の推進は困難であったが、一方で予想されていなかった新たな成果を挙げることには成功した。両者を勘案し、進捗評価としては「順調に進展した」と評価する。
今後は新たに発見した温度駆動のトポロジカル相転移に注目し、Bi単結晶以外にも狭ギャップトポロジカル絶縁体などの電子状態の温度変化を追跡する予定である。また、昨年度中に出版される予定であった論文1報の査読が長引いているため、その掲載費用に充てる予定であった一部の金額を今年度に繰り越している。
昨年度中に出版される予定であった、本研究の成果に関連する論文1報の査読が長引いているため、その掲載費用に充てる予定であった一部の金額を今年度に繰り越している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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