研究課題/領域番号 |
17K18758
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鳴海 康雄 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (50360615)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | パルス強磁場 / 100T / 非破壊 / 磁束濃縮 |
研究実績の概要 |
2018年9月、東京大学物性研究所に於いて、制御された室内での実験としては世界最高となる1200テスラの超強磁場発生に関する研究成果が公表され、大きな注目を集めている。この1200テスラは、電磁気学的な手法により磁束を狭い空間に濃縮するという、電磁濃縮法という技術によって達成された。ただし、この濃縮を伴う磁場発生によって、試料や測定プローブはもちろん、磁場を生み出すコイルそれ自体も完全に破壊される。しかし、現在の磁場発生技術では100テスラを越える磁場をコイルの破壊無しに発生する事はできない。そこで本研究では、全く新しいアイデアに基づく、破壊を伴わない磁束濃縮による強磁場発生技術を確立し、超100テスラ領域での繰り返し可能な精密な物性実験の実現を目指している。初年度に実施した研究では、まず元になる種磁場用パルス電磁石の開発を行い、約0.5ミリ秒のパルス幅で36テスラの磁場発生に成功した。そして、この電磁石が作る磁場を濃縮することで5テスラの種磁場を10テスラまで増強し、約200パーセントの磁束の濃縮に成功した。2年目となる2018年度は、磁束の濃縮率をより高めるために、磁束を閉じ込める為の無酸素銅製治具の構造を見直し、様々な寸法を持つ磁束濃縮器を製作して、その濃縮効率を最適化する構造の探索を進めた。その結果、磁束濃縮率を最大で300パーセントに高めることに成功した。今後、更なる磁束濃縮率の向上を実現するための最適化を進めると共に、低温での実用実験に必要となる試料空間の大きい大型のマグネット、およびクライオスタットを製作し、磁束濃縮磁場を用いた実証実験を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に開発した約0.5ミリ秒のパルス幅で36テスラの磁場発生可能な種磁場用パルスマグネットを用いて、磁束濃縮率を最適化するための磁束濃縮器の開発を進めた。具体的には、テーパー角、内外径比、分割数の異なる複数の無酸素銅製磁束濃縮器を設計しそして数値制御による機械加工によって製作し、それらを用いて磁束濃縮率を実測する試験を行った。その結果、種磁場強度5テスラ未満の領域において、磁束濃縮率を従来の200パーセントから300パーセントに高めることに成功した。これと平行して、初年度に開発した磁束濃縮器を用いて、種磁場強度を上げる試験を実施した。その結果、種磁場強度20テスラの条件での濃縮後の磁場強度は30テスラとなり、濃縮率が150パーセントと低磁場領域のそれと比較して低下していることが確認された。この濃縮率が非線形になる原因の可能性としては熱による表皮効果の低下が考えられることから、温度の実測による原因の検証と高磁場域で最適となる磁束濃縮器の構造の再検討をする必要がある。この再検討作業のため、実際に測定するための実用装置の開発が遅れているため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
高磁場域での濃縮率低下の原因を再検討し、最適となる磁束濃縮器の構造の決定のため、試作機を実際に製作することによる実証実験と平行して、有限要素法を用いた数値計算による理論解析を行う。また、実用実験を見据えて、ヘリウム温度4.2ケルビンでの実験に必要な10Φの試料空間を確保した大口径の磁束濃縮器を設計するとともに、その磁束濃縮器を組み込むことが事が可能な大口径で、持続時間サブミリ秒のパルス電磁石の開発を行う。加えて、ノイズの少ない磁場発生電源の開発も進める。さらに、従来のガラス製デュワーに代わるガラス繊維強化樹脂(FRP)製の液体ヘリウムデュワーを開発する。これは、実際の実験では磁束濃縮器である金属とヘリウムを溜めるための容器が近接することから、衝撃による容器の損傷を避けるために重要となる。このFRP製のデュワーの開発に成功すれば、金属製デュワーを使った実験装置の非金属化も可能になることから、本研究テーマが目指す強磁場化のベクトルに加えて、1K未満の極低温での実験技術の高度化という波及効果も期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
高磁場領域での磁束濃縮効率が低磁場領域のそれからずれていく非線形性がみられていることから、それを改善するための磁束濃縮器の構造最適化が遅れている。それが派生して実用装置の設計も未完了となっているため、製作に必要な部材の発注を当該年度内に完了する事ができずに次年度使用額が生じた。現在、構造の最適化と平行して実用装置の開発を継続して進めているが、今後の計画に遅延がでないように種々の実験条件にも対応出来るように一部の部品を寸法の異なる複数の交換可能な部品とすることで、開発の結果に柔軟に対応出来る形での研究開発を進めている。当初の研究計画よりも少し遅れが生じてはいるが、既に一部の部品の発注は完了しており、計画最終年度においても十分な成果が得られるものと考えている。
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