磁場は電子スピンとその運動に直接作用する重要な外場であり、物質の磁気特性は電子ピン間に働く磁気相互作用の大きさと印加磁場との大小関係で決まる。しかし、100テスラを超える磁場領域では、磁気相互作用を上回る化学結合のエネルギーと磁場が拮抗することで、磁場による化学変化という従来の物理学の枠組みを超えた新しい物質科学が期待される。本研究の目的は、コイルの多層化や印加電流の増強という従来の電磁気学に沿った強磁場磁場発生法とは異なる、磁場発生装置の変形や破壊を伴うこと無く磁束を濃縮する新しい磁場発生技術(非破壊パルス磁場磁束濃縮法:以下、磁束濃縮法)を確立し、100テスラの磁場発生を実現する事である。 磁束濃縮法の原理は以下の通りである。変動する磁場中に金属が置かれると、金属表面には磁束の浸入を妨げるための遮蔽電流が誘起される。この現象を利用すると、変動磁場中に金属を挿入することで、わずかに残した金属の無い領域に、本来の磁束密度を上回る、磁束が高密度に濃縮された状態の実現が期待できる。この考えを元にして、分割されたコーン状の無酸素銅製構造物からなる磁束濃縮法による磁場発生装置を作成し実験を行ったところ、元々は約半分だった磁場を約10テスラに増強できることを実証した。 最終年度は、構造物の形状、導電性、変動磁場の周波数の変化が、磁場増幅率に与える影響を調べた実験データを理論的に評価・検証するために、有限要素法解析プログラムAdventureを導入し、渦電流解析を行うための数値シミュレーションを実施した。それらの解析結果と実験データの成果をまとめて論文として投稿する予定である。
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