研究課題/領域番号 |
17K18760
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大久保 晋 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 准教授 (80283901)
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研究分担者 |
原 茂生 神戸大学, 研究基盤センター, 特命技術員 (60520012)
齋藤 佑 神戸大学, 研究基盤センター, 研究支援推進員 (60772142)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 新しいESR検出法 / ゼロ検出法 / テラヘルツ光 / 偏光 |
研究実績の概要 |
平成29年度は計測原理確認と調整機構の動作確認のためにφ100mmの室温空間を持つヘリウムフリー超伝導磁石(静磁場10T)を用いたシステム構築を行い、動作原理の検証を行った。テラヘルツ領域で用いることができるワイヤーグリッド偏光素子によってクロスニコル測定法でESRシグナル検出が可能であることを示すことに成功した。ワイヤーグリッド偏光素子は50μm間隔のもので300GHz(λ=1mm)が最大効率となっているものを用い、直線偏光の光源として105GHz(λ~3mm)のGunn発振器を用いた。検出器は同じく100GHzを最大効率となっているショットキーダイオードを用いて測定を行った。光源からの偏光度を保証するため、2枚の偏光素子による消光や偏光素子間隔による依存性など基礎的な計測を行い、試料前後に2枚の偏光素子を導入し計測を行った。その結果、クロスニコル計測によりバックグラウンド光が入射光の5%以下に減少し、ESR信号とバックグラウンド光の比がほぼ100%の計測を達成できた。この成果は、ESRが右回り偏光にのみカップリングし吸収が起こることを示しており、本研究の「ゼロ検出法」が原理的に可能であることを示している。これにより本研究が目的とする、新しいテラヘルツ領域磁気共鳴測定が原理的に可能であることが分かった。また、ロックイン増幅器を用いた場合は、光源出力が1μWと微弱になってもESRの検出ができた。これは従来のホットエレクトロン検出器のInSbを使ったビデオ検出法と比べて10^5高感度である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、テラヘルツ領域の偏光素子として微細加工で製作されたものを導入する予定であったが、代理店が取り扱いを中止したため入手が困難になっていた。そのため研究初年度は従来からあるテラヘルツ用ワイヤーグリッド偏光素子を用いて「ゼロ検出」の動作原理の確認を行った。申請時に予想してた通り、偏光素子にあるわずかな反射率と垂直偏光でも残る透過率のため偏光素子間でファブリ・ペロー共振器的な共振が生じるため、偏光素子それぞれの位置や偏光の角度を微調整できる機構が必要不可欠であることが明確となった。初年度作成したテストベンチでは、装置に手動で微調整できる機構を組み込み、消光が最大になる位置で実験を行い良好な結果を得た。しかし、現在使用しているフリースタンディングワイヤーグリッド偏光素子はワイヤー固定のための大きな枠があり、大口径の超伝導磁石でさえ偏光素子を磁場空間に導入することができない。そのため初年度に当初予定していた各種部品(ルーフトップミラー、ワイヤーグリッド偏光素子の角度と高さ)の調整機構の検討が十分できていない。
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今後の研究の推進方策 |
ゼロ検出法の実現するために偏光素子を磁場空間に導入するには、現在のフリースタンディングワイヤーグリッド偏光素子より小型の偏光素子が必要である。まず一つめとして、当初予定していた微細加工によるワイヤーグリッド偏光素子の製造元は存在するので代理店を引き続き探す努力を行う。これと同時に、最近製品化された赤外領域用の金属ナノワイヤーグリッド偏光フィルムが存在するので、この偏光フィルムのテラヘルツ領域における特性の測定を行い、微細加工によるワイヤーグリッド偏光素子の代替とならないか検討を行う。今年度は、この偏光フィルムのテラヘルツ領域の偏光特性測定と、初年度予定していた各種部品(ルーフトップミラー、ワイヤーグリッド偏光素子の角度と高さ)の調整機構の設計と10T超伝導磁石に導入出来るシステムの製作を急ぎで行い、定常磁場下におけるゼロ検出装置の開発を行う。定常磁場における装置開発ができればサイズを縮小し、φ15mmのパルス強磁場中に導入できるクライオスタットの設計・製作は年度内に可能と考えている。
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