研究実績の概要 |
本研究は、液体ヘリウム以外の新しい超流動体を実現することを目的とする。ヘリウムより軽い元素である水素に着目し、強電場中で水素液体が安定して存在するという理論提案に基づき、水素分子(H2)及び重水素化水素(HD)の薄膜に強電場を印加して液体状態を極低温まで保持し、超流動探索を行う。 平成29年度までにヘリウムおよびネオン薄膜において弾性率が散逸を伴って低温で増大する「弾性異常」現象を発見し、弾性異常が薄膜超流動発現への手がかりとなることが判ったが、水素薄膜では弾性異常が明瞭に観測されなかった。そこで30年度はねじれ振動子装置の配管を改良して水素薄膜に対して弾性異常の探索を行ったところ、H2,HD,D2の3種類の水素同位体薄膜全てにおいて、弾性異常を観測することに成功した。驚くべきことに水素では3つの弾性異常が約5Kから1Kまでの温度域で発見され、さらにHD薄膜では1K以下で4つめの異常が見つかった。3つの弾性異常は、高温側から基板に局在した固体水素の古典的拡散、量子トンネルを伴う量子拡散、薄膜最表面の2次元水素中の拡散の凍結に起因すると解釈している。特に薄膜最表面水素の拡散凍結による弾性異常の温度は、吸着量の増加に伴い低下して1K付近で停滞することがわかった。このことから、水素薄膜は最表面がバルク三重点(13.7K)の約10分の1まで「液体」として存在するが、超流動を示す前に固化してしまうと考えられる。 この結果から、極低温下で水素薄膜にフォノンを照射して励起させ、非平衡超流動状態でを実現するという新しい着想を得た。このアイデアの検証するため、平成30年度は薄膜を励起させるフォノン源として水晶トランスデューサ(100MHz領域)と超伝導トンネル接合(10GHz-1THz)の準備を行った。 ヘリウム・ネオン薄膜の弾性異常について論文を出版し、水素薄膜については論文執筆中である。
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