振動励起状態にある二酸化炭素と水素原子の会合反応によるギ酸の直接生成について,昨年度の実験では質量分析器と反応真空容器を接続する小径の金属オリフィスにおける反応損失が疑われた。そこで,今年度は,排気装置の最終段の油回転ポンプをドライポンプに置き換え,排気を水中にバブリングし,そのpHを調べたが,ギ酸の生成を示唆する酸性化は確認されなかった。ギ酸をさらに損失無く検出する方法として,反応真空容器内に液体窒素溜めを設置し,その表面においたガラス板上に凝縮させる方法を試みた。生じた凝縮物を再びガス化し,その成分を質量分析器で調べたが,残念ながらギ酸を検出することはできなかった。以上のように,振動励起状態にある二酸化炭素に水素原子を直接会合させるという本研究の構想を実証するには至らなかった。 一方,電子励起状態を経た解離では無く,振動励起状態を経た過程によって二酸化炭素を分解する実験においては,以下の成果が得られた。水素またはヘリウムを用いて超低電子温度再結合プラズマを生成し,発光分光計測の結果からプラズマの電子密度および電子温度を求めた。また,質量分析器を用いて,パルス幅が2秒のパルスプラズマを生成した直後から電力停止後のアフターグロー期間における二酸化炭素および反応生成物密度の時間変化を測定した。これらの結果を単純化したレート方程式モデルに代入し,実験結果とのフィッティングをとることにより,振動励起状態を経た二酸化炭素分解のレート係数を求めた。求めたレート係数を電子温度の関数としてプロットしたところ,電子温度の増加によってレート係数が低下すること,および,振動励起状態を経た解離のレート係数は電子励起状態を経た解離のレート係数よりも一桁程度大きいことがわかった。これにより,振動温度の非平衡性を活用した新しいプラズマ反応プロセスの開拓という本研究構想の妥当性を示すことができた。
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