研究課題
本研究は、核融合を目指す高温プラズマ中の電子密度揺動やその流速を計測するミリ波ドップラーレーダ用の同時に様々な方向へビームを放射できるアンテナを開発することを目的としている。このアンテナには、高温プラズマ計測のために、(1)広帯域性能(広い周波数領域にわたりプラズマ照射が可能であること)(2)高速スキャン(短い時間で照射スキャンが可能であること)(3)耐超高真空仕様(真空容器内に設置しての運用が可能であること)が求められるため、ミリ波周波数コムを用いた多周波数同時発生技術とメタマテリアルを用いた位相制御技術を融合することにより、革新的なフェーズドアレイアンテナシステムを構築しようとしている。上記した目的達成のため、三年間の研究期間を通じて、プラズマ計測に最適化したフェーズドアレイアンテナシステムを製作し、性能試験を経て、プラズマ実験でその機能実証を行うという計画である。本年度は、本研究の2つの革新的な開発要素について、以下のような成果を得た。1.走査時間の無いフェーズドアレイシステム: 本研究では、同時に複数の周波数を用いることで、ビームを多方向へ同時に照射できるアンテナシステムを構築することを目指している。プラズマ計測に用いる周波数帯域および周波数コムを用いた場合の周波数間隔を決定し、最適なアンテナアレイの設計を行った。2.メタマテリアルを用いた広帯域位相器: フェーズドアレイアンテナとして動作させるためには、アンテナ毎に正確な位相差を付与する位相器が必要である。特にプラズマ計測では広い周波数領域に亘るミリ波を用いるため、位相器にも広帯域性が求められる。本研究では、高周波用テフロン基板上に形成したマッシュルーム型デザインを採用することとした。3次元波動シミュレーションによる基板設計手法を整備し、素子の試作を行った。
2: おおむね順調に進展している
三年間の研究計画として、プラズマ計測に最適化したフェーズドアレイアンテナを製作し、性能試験を経て、プラズマ実験でその機能実証を行うという計画を立てた。そして、(1)走査時間の無いフェーズドアレイシステムと(2)メタマテリアルを用いた広帯域位相器の開発が重要であると想定し、年次計画を立案し、これに従って研究を進めた。まず初年度は、[フェーズドアレイアンテナを構成する2つの要素を確認・検証する]という点を調べ、概ね順調に開発を行った。そして本年度は、[プラズマ計測のための周波数帯域での実機製作と性能試験]ことをテーマとして、以下の2つの研究を実施した。1.初年度の成果を基に、プラズマ計測にて実施する周波数帯域へと高周波数化したアンテナアレイを設計することを実施した。ターゲットとなるプラズマの電子密度を2x10^19 m^-3 として、Ka-bandの周波数帯でのアンテナアレイを製作することとし、アンテナ間距離、周波数間隔、放射角度等の最適な値を決定した。2.メタマテリアルを構築する基板設計を3次元電磁界シミュレーションソフトを用いて行った。基板は3次元CADで設計し、これをシミュレーション空間へと移送、シミュレーション結果を基に、設計を修正するという手順の確立を行い、これから実機を製作していくという段階である。当初計画では、性能試験まで実施し、「無走査同時ビーム放射は達成できるのか?」ということを実証する計画であったが、試作の費用の効率化を図るため、最適な設計を行ってから、実機製作に入ることを目指したため、シミュレーションを細かくしたためである。一方、次年度実施するプラズマ計測のための準備は前倒しで行っており、進捗状況としてはおおむね順調である。
最終年度は、 [プラズマ実験への適用]を行うことをテーマとして、研究を実施する。すなわち、これまでの開発に則って、Ka-bandのミリ波帯のフェーズドアレイアンテナを製作し、九州大学応用力学研究所の乱流プラズマ実験装置でのプラズマ計測実証を目指す。具体的には、以下の3つの課題を実施する。1.メタマテリアル位相器を用いたフェーズドアレイアンテナの実機作成とその性能試験を行う。特に、放射ビームプロファイルを精密に計測し、設計した通りの角度方向にビームが放射できるのかを明らかにする。シミュレーション結果との比較を行って、評価する。2.入射ミリ波の周波数変調方法として、周波数コム方式と周波数掃引方式の二つの方式を試し、双方の特徴を明らかにするとともに、本フェーズドアレイに最適な方式を決定する。3.プラズマ実験装置に設置し、プラズマ中の乱流速度・散乱スペクトル計測を行う。静電プローブ、方向性プローブなど他の計測器との比較を行うことで、プラズマ計測器としての性能評価を行う。研究成果は随時、関連する学会や専門家研究会で発表報告し外部研究者らの意見をもらって研究にフィードバックする。また論文にまとめて学術雑誌によるピアレビューを通して発表を行う。
製作費用の効率的な執行をするために、試作品のシミュレーション計算を多く行ったことにより、発注を見合わせている物品があること、また、本年度内の研究成果に基づいて設計し、製作を依頼した物品の納品が若干遅れ次年度となったものがあるため。最終年度には、当初計画した物品を全て製作し、性能評価を実施し、計画を完遂する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件)
Review of Scientific Instruments
巻: 89 ページ: 10H118~10H118
10.1063/1.5035118
Proceedings of 43rd International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves
ページ: Th-P2-R2-1