研究課題/領域番号 |
17K18778
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
早田 次郎 神戸大学, 理学研究科, 教授 (00222076)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 原始重力波 / 量子性 / インフレーション |
研究実績の概要 |
インフレーション理論は、宇宙の大規模構造や宇宙背景放射の温度揺らぎを説明することに成功した。ミクロな世界の量子揺らぎがマクロな宇宙の構造の直接の原因であるというインフレーション理論の主張は、それを検証することができればノーベル賞級の業績となるほどの重要性を持つ。しかし、競合する他の理論にも同様の結論を導くものがあるため、インフレーション理論を完全に確立するためには、インフレーション理論しか予言していない原始重力波を観測し、その量子性を証明することが必須である。2015年に重力波が初観測され、今や原始重力波の初観測は間近である。もしそうなれば、残された課題はその量子性を示すことだけとなる。幸い、近年の量子情報理論の発展は著しく、その成果を利用すれば、原始重力波の量子性の検証の可能性は高い。 本研究の目的は、量子情報理論における最近の成果を応用することで、インフレーションによって生成された原始重力波の量子性を証明する方法を開発することにある。 インフレーション中の原始重力波に応用するために、量子光学で使われている、光子数の偶奇をカウントする擬スピン演算子を導入した。これにより場の量子論においても、ベルの不等式を定義することができるようになり、インフレーション中のベルの不等式を計算することに成功した。 ベルの不等式は2体の量子相関に関する不等式であるが、場の本質は多体の相関にある。ベルの不等式を多体に拡張したものはマーミンの不等式と呼ばれている。我々はインフレーション中の揺らぎに対してマーミンの不等式の破れの大きさを評価することに成功し、量子相関が指数関数的に発散していくことを明らかにした。これは、量子性の観測可能性が高いことを示しており、重要な知見を得たことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
インフレーション中の原始重力波に応用するために、量子光学で使われている、光子数の偶奇をカウントする擬スピン演算子を導入した。これにより場の量子論においても、ベルの不等式を定義することができるようになり、当初の予定通り、インフレーション中のベルの不等式を計算することに成功した。
ベルの不等式は2体の量子相関に関する不等式であるが、場の本質は多体の相関にある。ベルの不等式を多体に拡張したものはマーミンの不等式と呼ばれている。我々はインフレーション中の揺らぎに対してマーミンの不等式の破れの大きさを評価することに成功し、量子相関が指数関数的に発散していくことを明らかにした。これは、量子性の観測可能性が高いことを示しており、期待以上の重要な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、マーミンの不等式の破れが、指数関数的に増大するという予想外の発見をした。今後は、この成果の物理的意味を深く掘り下げていくことが重要となる。そのために、原始重力波の量子コヒーレンスなどの他の量子性の指標を調べていくことが必要である。今後はこの方向の研究と宇宙の時間発展のなかでマーミンの不等式の破れがどのように時間発展していくかを並行して研究していくことで研究の進展に相乗効果を生み出していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
スペイン在住の研究協力者が日本に職を得て帰国することになったため、海外出張旅費と招聘旅費の両方を使う必要がなくなった。今後は、余剰金を研究協力者の旅費と研究会開催のために有効利用していく予定である。
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