研究課題/領域番号 |
17K18779
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
宮本 祐樹 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任講師 (00559586)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | ニュートリノ質量分光 / 位相共役波 / 水素分子 / 二光子放出 |
研究実績の概要 |
本課題の目標はニュートリノ質量分光の実現に向けて、その基礎過程の一つであるマクロコヒーレンス増幅機構を検証することである。代表者はこれまでも実証実験として、水素分子振動準位からの二光子放出過程をコヒーレンス増幅することに成功している。しかしながら、コヒーレンス生成にラマン過程を用いており、同様のジオメトリではニュートリノ質量分光は出来ないという問題があった。そこで本課題ではニュートリノ質量分光に適応可能なジオメトリ、具体的には逆向きに進む二つの光子の吸収でコヒーレンス生成し、二光子放出(位相共益波)を増幅する。 本課題には高強度かつ狭線幅な中赤外パルス光源が必要である。しかし必要な性能を有するレーザー装置は市販では手に入らず、また代表者がこれまでに作成した装置でも不十分であるため、2017年度はその開発を主に行った。 中赤外光パルスは、大強度Nd:YAGレーザーのパルス波長を非線形光学結晶により多段階に変換することで生成した。初段では光パラメトリック発生により波長可変の近赤外光を発生させる。この時に線幅の狭い連続波を同時に入射し、線幅を狭窄化した。これまで用いていたレーザーシステムでは初段に疑似位相整合を用いていたため、線幅がフーリエ限界よりも大きくなっていた。新システムでは温度位相整合を用い、線幅の大幅な狭窄化(およそ5倍程度)が見られた。ただし、利得が以前よりも小さいため、非線形結晶をキャビティ内に設置した。発生させた近赤外光を光パラメトリック増幅した後、Nd:YAGレーザーとの間で差周波発生を行い、目的の中赤外光を得た。得られた中赤外光は出力およそ5 mJ、線幅200 MHzであり、本研究に充分な性能が得られた。 この中赤外光を用いてすでに位相共役波の発生を確認した。現在は発生した信号の詳細な研究を行い、対向光子励起によるマクロコヒーレンス増幅の理解を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題では2017年度はレーザー開発に充てる予定であったが、レーザー開発がスムーズに進んだため、次年度に行う予定であった位相共益波発生実験をすでに行い、信号を観測することに成功している。そのため、当初の計画以上に進展しているということが出来る。現在は当該過程をより詳細に研究し、また数値シミュレーションとの比較などによりより深い理解を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は二つの中赤外レーザーシステムを用いて、トリガ光をポンプ光と独立に変化させる実験をまず行う。これは本課題の最終目標と設定していた実験である。この実験に用いる2つ目のレーザーシステムについても準備はすでに終了しており、問題なく実験が行える状況にある。この実験により、コントロールできる実験パラメータ(パルスのタイミングや周波数)が増えるため、当該過程の理解のさらなる深化が期待できる。 さらに、これまでは標的として気相の水素を用いているが、固体水素を用いる実験を計画中である。固体水素は量子固体として特異な性質を持っており、とくに分子の振動状態のコヒーレンス時間が非常に長いことが知られている。固体水素を用いることで、気相の水素とは全く異なるパラメータ領域(特に密度とコヒーレンス時間)での当該過程の観測が可能となる。これにより当該過程の理解がさらに進むことが期待される。また、このような実験は量子固体に関する性質の解明にもつながる可能性があり、その意義は大きい。
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次年度使用額が生じた理由 |
光学系や真空系を現有のもので賄えた部分があり、予定より使用額を抑えることが出来、またレーザー開発が順調に進んだため、効率の良い運用ができたため次年度に予算を残すことが出来た。次年度では、あらたにサンプルを固体にした新たな実験を行うことを予定しているため、繰越出来た分をその準備に使う予定である。
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