本研究は宇宙マイクロ背景放射(CMB)の偏光観測実験において、これまでほぼ見過ごされてきた円偏光成分の測定に注目し、新たな宇宙論的測定の手段を開拓しようとするものである。特に、CMB直線偏光観測実験において、直線偏光情報を意図した周波数へ変調するために採用している光学素子「半波長板」の非理想的な効果を逆に利用することで円偏光の情報を抽出しようと試みている。 本研究の最終年度である2020年度は世界的な新型コロナウィルス感染症の流行により、当初予定されていた、南米チリの観測サイトから半波長板を持ち帰り、実験室において再測定を行うという計画を変更し、過去の試験データの再解析と新たな偏光光学素子による原理再検証実験を行った。 過去の試験データの再解析においては、解析方法に改善を施し、半波長板のミューラー行列の再評価を行った。特に、円偏光と直線偏光の混合をもたらす成分の評価に関して、系統誤差に関する取り扱いを含めた、詳細な解析を行った。その研究により、POLARBEAR実験やその他の半波長板を用いた直線偏光観測実験について、円偏光成分の観測感度に関する、より現実的な見積もりを得た。 一方で、次期計画を見越した新しい偏光光学素子の開発も進めた。特に、研究協力者の培ってきたミリ波帯における反射防止膜技術をもとに、新たに1/4波長板の製作を進め、円偏光に対する変調効率の評価を実験室において行った。詳細な特性評価結果と実用化に向けた研究は今後の研究に持ち越されたが、円偏光に対する応答が想定通り見られるなど、将来のCMB円偏光観測に対する基礎技術開発としての一歩を踏み出せたと考えている。
|