本年度は,気相化学反応における「核スピン選択則」を実験的に調べるための装置の設計・構築をおこなった.研究代表者がこれまでに用いてきた「共鳴多光子イオン化法」よりも,より高い圧力(10-3 Pa以上)で実験可能な「レーザー誘起蛍光法」を用いたほうが,気相化学反応で生成した分子の生成量を多くすることができ良いことがわかったため,レーザー誘起蛍光法を用いた実験ができるように設計し,装置を組み上げることができた. また実験をおこなう反応系について調べた結果,H2O生成反応(H2 + OH → H + H2O)の室温の速度定数は7×10-15 cm3 molecule-1 s-1と小さいため(つまりH2 + OH → H + H2Oは遅い反応であるため),生成物であるH2Oの核スピン状態(オルソ/パラ状態)を選択的に検出できるほどの十分な生成量を確保できない可能性がある.そこで実験的に実現可能性の高い反応系を調べたところ,1重項の電子励起状態であるNH(a1Δ)とH2との反応が良い候補であることがわかった. 反応(1): NH(a1Δ) + H2 → NH2 + H 反応(1)の速度定数は,H2O生成反応(H2 + OH → H + H2O)の速度定数(7×10-15 cm3 molecule-1 s-1)よりも数桁大きい可能性が高く,生成物であるNH2の量を稼ぎやすい.また,NH2はレーザー誘起蛍光法によって感度良く検出できることが知られている.さらに,NH2についての回転構造の核スピン重率等はH2Oと同じなため,エネルギー準位を調査してオルトとパラにあたる回転準位に検出波長を合わせることで,生成物のNH2のオルソ/パラ状態を選択的に検出できることがわかった.
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