研究課題/領域番号 |
17K18799
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木戸 元之 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (10400235)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 音響測距 / 海底地殻変動 / GPS-A / ディファレンシャル / 海中音速 / 波形読み取り |
研究実績の概要 |
本研究は、海域の広域地殻変動場を計測するために近年急速に普及し始めたGPS音響結合方式(GPS-A)の海底測地技術を、海底断層などを挟んだ短基線の歪み検出に転用できるかどうかを実証する新たな試みである。本来このような観測対象は海底間音響測距が用いられるが、海底での視界が得られず観測できないことも多かった。GPS-A方式をGPS/Differential-Acoustic(GPS-DA)として転用することで、海面からの測距が利用できる一方、海面付近の海水の擾乱の影響を相殺でき、音響波形についても様々な誤差要因を相殺できる画期的な方法である。 平成29年度は、日本海溝宮城県沖の断層崖に設置してある既設の観測点のデータを用いた解析を通して、本計画で提案した手法の精度評価を試みた。隣接する各海底トランスポンダからの音響受信波形について、通常GPS-Aでは送信理論波形との相関処理により走時を読み取るが、GPS-DAでは音響受信波形同士を相関処理することで、ノイズの共通成分の殆どを相殺でき、極めて高い精度で相対走時差を計測できることを実証した。読み取りの不具合が無いか熟練者の目視による波形確認も併せて行った。その結果、3つのトランスポンダのうち、特定の一つとは波形の類似度が高くなかった。これはそのトランスポンダが他と異なる傾斜で設置されていた可能性を示す。一方、他の2台同士では波形の類似度は極めて高く、分解能で1mm、精度で3mm程度の距離に相当する走時読み取りに成功した。これは通常の海底間音響測距に匹敵する。 一方、海底付近の僅かな温度擾乱により、見かけ距離に誤差が生じるが、これは隣接する距離を通常の海底間測距の数分の一程度に短くすることで、直接温度計測なしで最終精度1cmの確保の目処がたった。仮に海底間測距と同様に温度モニタリング機器も併設すればさらなる精度向上が見込まれる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、上記概要に記載した通り、設置済みのトランスポンダから得たデータを用いて実測データに基づく測距分解能・精度の確認および理論的考察に加え、設置済みのトランスポンダの回収、および次回併設設置のための温度計アレイの作成を予定していた。前者のデータ解析および理論的考察は、当初の予想を上回る精度での計測に成功し、一部精度が良くなかった組み合わせについては、その原因を理論的に推定することに成功した。一方、予定していた調査航海のシップタイムを確保することが叶わず、トランスポンダの回収を平成30年度以降に持ち越してしまったため、新たな観測点への再設置も翌年以降にずれ込む結果となった。これに伴い、海中温度モニタリング機器を併設した、観測の開始も持ち越しとなった。調査航海自体の採択は年度当初になって決定されるため、必ずしも事前に計画した通り観測が進まないことも多く、その場合既存のデータ収集を増やしたり、データ解析・理論研究の高度化し、総合的な成果を補う必要がある。これらの計画については、下記の今後の研究の推進方策に記載した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まずここまでのデータ解析で得られた結果について、学術論文で公表し、同時に学会発表もおこない、広く外部研究者の意見を収集する。その結果をデータの再解析に反映させ、計測精度の更なる向上の可能性を追求する。解析において積み残した問題として、特定のトランスポンダの音響波形が他の2台と類似していなかった問題で、設置角度が傾いた場合のの波形歪を理論的に予測し、その理論式で補正することで、他の2台同士と遜色のない精度での解析ができるか判断する。これらのデータ解析のうち、目視による確認を要するものは、訓練を受けたものに作業を依頼する。 一方、今年度中に調査航海のシップタイムが得られる公算が高くなったため、設置済みの3台のトランスポンダを追加観測後に回収する。昨年回収できなかった代わりに、より長期間のデータが利用できることになる。回収したトランスポンダは、長期設置後の切り離し回収機構の劣化の様子を確認するとともに、今後同様の観測に即使用できるよう、再整備する。平成29年度に回収できず、さらに新たな観測を再開できなかったことを補うため、通常のGPS-A観測点のトランスポンダの配列の一部を使用した、1次元観測を試み、本申請のGPS-Aと併せて、新たな観測手法としての可能性を実データをもとに評価したうえで、次世代観測手法として提案し、学会などで報告する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、データ解析および理論的研究は予定通り実施できたが、予定していた調査航海のシップタイムが取れなかったため、回収予定であった機器の整備費(その他)、再設置の際の追加モニター機器の購入(物品費)、および調査航海のための旅費など(旅費)の使用が予定より大幅に少なかった。平成30年度は、データ解析などの成果を発表するための論文投稿料、学会参加費を多く予定している他、波形解析を継続するための人件費、観測・研究打ち合わせのための旅費、観測に伴う物品費、観測機材の運搬等の経費が必要となる。
|