研究実績の概要 |
短寿命気候汚染物質SLCPsは、今後、20年間に人間活動が原因で起こる温暖化の約半分に寄与すると考えられている[UNEP/WMO, 2012]。対流圏オゾンはSLCPsの一つであり、有毒な大気汚染物質であるが、その量はオゾン総量の10%以下であるため、対流圏オゾンの濃度を宇宙から精度よく観測することは原理的に大変難しい。本研究は、対流圏オゾンの濃度分布を、静止気象衛星ひまわり8/9号の赤外バンド(9.6μm)のデータから導出することができるかを明らかにすることを目的としている。昨年度までに、ひまわり8号のデータを用いた雲判定アルゴリズムを開発し、晴天域で同期するひまわり8号とGOSAT/TANSO-FTSの観測視野を抽出した。その上で、GOSATの晴天観測シーンの9.6μm帯の輝度スペクトルからオゾンの鉛直濃度分布を導出するアルゴリズムを開発し、東アジア域で導出した鉛直分布データとオゾンゾンデ等の他データと比較したところ、両者は概ね良い一致を示すことがわかった。今年度は、全国の大気環境常時監視測定局の地表オゾン(光化学オキシダント)の観測データを収集し、日本の地表オゾンの濃度分布は春季・夏季に高濃度となること、春季は特に中国大陸に近い西日本で地表オゾン濃度が高くなる傾向にあることを確認した。同様の傾向は、TANSO-FTSの春季・夏季の地表オゾンの濃度分布にも見られた。さらに、GOSATと同期しているひまわり8号の晴天域の観測シーンについて、9.6μmバンドのバンド内の観測感度の違いをもとにオゾン濃度の高度情報を抽出する手法を検討したが、ひまわり8号の輝度データ単独では地表オゾンの情報のみを得ることが難しいことがわかった。しかし、本研究で、GOSATのような高頻度観測が可能な下方視型センサーの高波長分解能データから地表オゾンの濃度分布の特徴の抽出が可能であることが示された。
|