研究課題/領域番号 |
17K18806
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
國本 健広 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 特定研究員 (20543169)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ多結晶ダイヤモンド / マルチアンビル装置 / 地球マントル最下部 |
研究実績の概要 |
ナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)をマルチアンビル装置の高圧発生部材料に利用することによって地球のマントル最下部領域の温度圧力条件の精密発生を目指した。NPDアンビルはレーザー加工を採用してさまざまな形状を作成し、マルチアンビル装置の圧力媒体中に埋め込まれ、圧力発生試験および高温発生試験に用いられた。高圧発生方法は第1から3段目までのアンビルの個数によって6-6-8, 6-8-8, 6-8-2式と呼称される3方法が試験された。その結果、最終的には6-8-8式を用いて最大90 GPa, そして6-8-2式を用いて最大で地球のマントル最下部に相当する125 GPaに至る圧力発生が達成された。また、従来の手法では高圧下におけるX線回折パターンの収集には1200-3000sec. 程度の長時間露光を必要とした上にNPDに起因する回折線の紛れ込みを回避することが難しいという問題があった(Kunimoto and Irifune, 2010)。しかしながら今回の実験では高解像度カメラを用い、試料の正確な位置関係を把握することでそのような問題を軽減させ、同領域における明瞭なX線回折パターンの収集に成功した。これは将来的に地球のマントル主要鉱物を試料とした実験を行う上でも有用であると言える。また、本実験での初期試料サイズは直径厚みともに最小でも0.2 mm程度と、他の高圧発生方法と比較し大容量の試料を確保することができた。さらに、従来のマルチアンビル装置による高圧発生では試料とともに温度測定用の熱電対なども高い圧力にさらされるため、その圧力依存性が温度の見積もりに不確定性を与える。しかしながら本研究で開発した手法(6-8-2式)では高圧にさらされるのは試料のみに限られるため、熱電対の圧力依存の問題を無視することができ、より正確な温度の見積もりを可能とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高圧発生に関しては地球の最下部条件をほぼ完全に網羅する圧力の発生を達成し、当初設定していた目標は達成されたと言える。そして最大圧力近辺においても試料の同定に十分なX線回折パターンを120-300 sec.という短時間で得ることができており、実際のマントル鉱物を試料として用いた場合にもその相転移の観察などには十分利用できる。しかしながら高温発生に関しては鉱物の相転移を生じさせるには十分な高温発生を可能としているが、温度を変化させた際の圧力変化を十分に御しきれておらず、圧力・温度を精密に制御することは難しく、この点に関する改良の必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは技術開発を中心に進めてきたが、今後は技術開発的な仕事も行いつつ、実際の地球のマントル主要鉱物を試料とした相境界の決定などを中心に実験を進める。特に大容量高圧発生装置を用いた場合においても地球のマントル最下部領域の研究が可能であるということを明確に示すため、マルチアンビル装置を用いて未だに観察された例のないMgSiO3組成のポストーブリッジマナイト相の観察を目指す。圧力発生に関しては概ね達成されているため、これまでに開発した手法を踏襲しつつ、より高い圧力を発生可能な構成を模索することも検討するが、基本的には現在の構成を基本として実験を進める。高温発生時の圧力変化の問題はダイヤモンドアンビルに発生したストレスおよび塑性変形に起因すると推察しているため定期的なアニーリングなど改善策を模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度までに使用および破損する分として想定していた高圧アンビルを含む消耗品が想定以上に長期利用できたためその分の金額を節約することができた。また放射光実験旅費に使用予定であった旅費に関しては、本研究を含む複数の課題研究が放射光施設のパートナーユーザーとして認定され、旅費の補助を得られたため使用する必要がなくなったため。
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