川井式マルチアンビル装置 (KMA)は大容量試料の確保や安定した圧力と温度の発生が可能な高圧装置として地球内部の物質科学的研究にとって重要な装置である。しかし再現可能な地球内部環境は下部マントル中域にとどまり、今後はD”層から核ーマントル境界(CMB)に至る圧力である約125-135 GPa程度までの拡大が望まれる。KMAを用いた高圧発生の要は加圧部に用いるアンビル材の選択と試料部構成と言える。アンビル材としては一般的には炭化タングステン(WC)が用いられ約30 GPaまでカバーできる。さらに高い圧力を要する場合は焼結ダイヤモンド(SD)を用いた上で特殊な形状のアンビルを採用することで120 GPa程度の圧力発生に成功した例もあるがコストや再現性などの問題も残る。 そこで我々は、Endo and Ito (1982)によってはじめて開発された6-8-2式を用い、第3段目アンビルとしてナノダイヤモンド多結晶体(NPD)を採用して高圧発生技術の開発を進め、D”層からCMBに至る圧力(125-135 GPa)を発生可能な装置の実現を目指した。 実験はダイヤモンド合成については愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターで、高圧発生試験は放射光施設(SPring-8)において行った。圧力は試料中のAuの格子体積から状態方程式を用いて計算した。圧力媒体中に設置されるNPDアンビルは先端0.4もしくは0.6 mmを使用した。出発試料には予め合成したMgSiO3組成のブリッジマナイトとAuの混合焼結体を用いた。その結果、地球のマントルー核領域を完全に網羅する圧力である150 GPaを超える圧力発生を達成した。 本結果によって地球のマントル最下部までの高圧条件を従来の装置よりも大型の試料容積を用いた上で発生できることとなり、より複雑な実際のマントル鉱物に近い化学組成の試料を用いた実験が可能となる。
|