研究課題/領域番号 |
17K18807
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野口 高明 九州大学, 基幹教育院, 教授 (40222195)
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研究分担者 |
日高 洋 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10208770)
岡崎 隆司 九州大学, 理学研究院, 助教 (40372750)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 月レゴリス / 超高圧電子顕微鏡 / トモグラフィ / ソーラーフレアトラック |
研究実績の概要 |
ソーラーフレアトラックの可視化実験:初年度に高エネルギーヘリウムイオン照射を行ったカンラン石を300℃付近で加熱し,ソーラーフレアトラックの可視化を試みた。光学顕微鏡と通常のSEMで観察したところでは明瞭な変化は得られていない。このため,月レゴリス粒子についても加熱実験を行う予定であったが,まだ行っていない。 超高圧電子顕微鏡によるソーラーフレアトラックの3次元構造の再構築:月レゴリス試料から,直径2ミクロンで長さ20ミクロンの円柱状試料をFIBで作成した。前年度は厚さ2ミクロンの板状試料を作成し,超高圧電子顕微鏡を使ったトモグラフィを行いトラックの三次元再構築を行おうとしたが,試料を傾けるとコントラストが得られなくなる問題が生じたため,今年度は,円柱状試料を作成した。ソーラーフレアトラックが観察できれば,トモグラフィ観察も行い,トラック像の三次元再構築を行う計画であった。しかし,ソーラーフレアトラックはほとんど観察することができなかった。現在,その原因を検討中である。 月レゴリス粒子表面から特異な組織を発見:上述の試料準備の過程で,月レゴリス粒子の表面組織をFE-SEMで観察した。まれに,レゴリス粒子中のFeSが化後状になりそこから霜柱状の曲がった金属Feの針状結晶集合体の結晶化が起きているものがあることに気付いた。これは,太陽風照射によって単に構造が壊れるのではなく,新たな結晶の成長が起こる場合があることを示している。宇宙風化層の記録する1,000年程度の期間の情報と,ソーラーフレアトラックの記録するより長期の情報の中間的な期間の照射情報を保持する組織である可能性がある。このため,今後のTEM観察に向けて,FE-SEMによる詳細観察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ソーラーフレアトラックの可視化実験:初年度に高エネルギーヘリウムイオンをカンラン石に照射した。照射部分の光学顕微鏡およびFE-SEMによる観察では変化は見られなかった。トラック沿いでの酸化鉄の形成を期待して,今年度はそれらを300℃程度に加熱した。しかし,今回も照射部と未照射部の変化は見いだせなかった。 超高圧電子顕微鏡によるソーラーフレアトラックの3次元構造の再構築:前年度には,厚さ2ミクロンの板状試料をFIBで作成し超高圧電子顕微鏡で観察したところ,試料傾斜を大きくすると急激にソーラーフレアトラックが観察できなくなることが分かった。今年度は,直径2ミクロンで長さ20ミクロンの円柱状試料をFIBで作成した。試料の伸長方向を電子顕微鏡のゴニオメーターの回転軸と平行にすることで,試料傾斜を行ってもソーラーフレアトラックの観察条件が変化しないはずだからである。ソーラーフレアトラック観察とトモグラフィを行い,トラックの三次元再構築をする予定であった。ところが,ソーラーフレアトラックがほとんど見つけられなかった。厚さ200nm以下の通常のTEMで観察できる月レゴリス試料でソーラーフレアトラックが全く観察されなかったことはないが,低トラック数密度試料をたまたま選んでしまった可能性がある。 月レゴリス粒子表面から特異な組織を発見:月レゴリス粒子のFE-SEMによる観察中に,レゴリス粒子中のFeSが太陽風照射によって単に構造が壊れるのではなく,霜柱状の曲がった金属Feの針状結晶集合体の結晶化が起きていることに気付いた。今年度より研究室のメンバーとして加わったPDの松本氏によると,同様の構造がイトカワ粒子のFeSにも多数観察されるとのことであった。そこで,イトカワ試料との比較を意識して,今後のTHEM観察の準備のためにFE-SEMによる詳細観察を彼と共に行った。
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今後の研究の推進方策 |
ソーラーフレアトラックの可視化実験:加熱試料をFE-SEMで観察し直すことと,月レゴリス試料の加熱実験を行う。これで変化が見いだせない場合は,次の項目に注力する。 超高圧電子顕微鏡によるソーラーフレアトラックの3次元構造の再構築:大きなレゴリス粒子を用いて,まずは通常の厚さの試料を作成し,ソーラーフレアトラックを高密度に含む試料を選び出す。それらについて再び円柱状試料を作成して,超高圧電子顕微鏡でソーラーフレアトラックの3次元構造を再構築して,長さ分布を検討する。FIB後にFE-SEMでステレオ画像を撮像し,3次元化ソフトで試料体積と表面積を推定する。そして,これらの試料の希ガス質量分析を行い,He,Ne,可能ならばArの段階加熱を行う。希ガス量や放出パターンの変化,同位体比と太陽風照射組織,ソーラーフレアトラック密度,ソーラーフレアのサイズ分布との関係を明らかにする。 40-50ミクロン径のレゴリス粒子についても同様にTEMと希ガス分析を行う。やはり,FIB後にFE-SEMでステレオ画像を撮影し3次元化ソフトで試料体積と表面積を推定した後,希ガス同位体分析を行う。特に,3He/4He比の異常がある物を探し,スーパーフレアの痕跡を希ガス同位体組成から探索する。 月レゴリス粒子表面から特異な組織の研究:特異な組織のTEM観察を行う。イトカワ試料の同様の組織と比較する。この組織は,太陽風よりも長期の照射を記録している可能性があるため,この組織を持つレゴリス粒子の希ガス同位体組成も測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
FIB加工後の後処理装置であるNanoMillが故障したため,年度末のTEM観察試料が作成できなかった。このため,一部のTEM使用料を翌年に持ち越した。今年度のTEM使用時に使う予定である。
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