研究課題/領域番号 |
17K18810
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中屋 晴恵 (益田晴恵) 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70183944)
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研究分担者 |
武内 章記 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 主任研究員 (10469744)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 地殻深部流体 / スラブ脱水 / 島弧火成作用 / 活断層 |
研究実績の概要 |
沈み込む付加体堆積物中の水銀の濃度と同位体比を明らかにする目的で,熊野灘沖南海トラフの深海底堆積物を分析した。水銀濃度は火山灰を多く含む堆積物1試料から800ppmを超える濃度を検出した以外は30~140ppmの範囲にあり,日本の沿岸部の海底堆積物の濃度範囲とほぼ同じであった。 上述の2種類の試料について,水銀同位体比を分析した。その結果,両方の試料でδ202Hgが-0.1~-0.8‰の狭い範囲にあった。この値は,すでに報告されている紀伊半島~四国の水銀鉱床から得られた辰紗(硫化水銀)の同位体比とほぼ同じ値である。また,生物活動や光化学反応によるとされる質量非依存同位体分別作用は見られず,地質起源とされる始原的水銀の同位体比とほぼ一致していた。南海トラフの同位体比を得た最深の堆積物の年代は中新世であり,人為汚染は考えられない。以上のことから,南海トラフの堆積物中の水銀は火山灰とともに蓄積したマグマ起源であると推定された。また,火成活動のない大阪平野の地下水中の水銀が類似の同位体比を持つことから,沈み込むスラブから活断層を通じてリサイクルした水銀が地下水に取り込まれたという作業仮説と矛盾しない結果であった。 フィリピン海プレートの沈み込みに伴う水銀の地殻へのリサイクルを一般化するために沖縄島の地下水を,島弧火成作用との関係を検討するために鹿児島県の火山地帯の熱水・噴気を採取した。これらの一般水質分析は終了しており,今後,水銀の分析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大阪府泉南地域の地下水と南海トラフの堆積物について得られた結果は,2018年8月に行われるゴールドシュミット会議で発表する予定である。 また,府域の北東部で活断層である生駒断層近傍で発見された水銀汚染井戸からの採水も行い,順次分析を進めている。発展的研究に進めるための試料は順調に採取が進んでいる。分析もおおむね計画通り進んでおり,2年度の前半までにはほぼ結果を得られる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
大阪府域の水銀検出井戸の地理的分布を明らかにするために,調査井戸を増やしていく。また,現生の付加体堆積物である南海トラフと,最終的に地表に戻る経路であるスラブ脱水や火成作用に伴う水銀の間をつなぐ,陸上の付加体堆積岩中での水銀の挙動を追跡するために,四万十帯や三波川帯で採集してきた岩石の分析を行う。 2年度前半までに,収集した試料の水銀濃度と同位体比の分析を終了する。これらの結果は論文化する。また,結果に基づいて発展的研究のための計画書作成と申請を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費がわずかに少なかったため。これは2年度の物品費に汲み入れる予定である。
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