研究実績の概要 |
天体衝突が起きた際には粉砕された岩石微粒子が上空へ放出される. このとき火山雷と同様の放電現象が起こると期待される. 我々はこれを「衝突雷(しょうとつらい)」と名付けた. 天体衝突の際に衝突雷が発生することを実験的・理論的・数値的に示し,惑星古環境を探る新たな視点を提供することが本研究の目的である. この目的のため(a)種々の粉体への衝突実験と放出物の詳細観測(2017-2019年度), (b)放出物カーテン形成, 及びその内部における粒子間相互衝突の解析モデル構築(2017年度), (c)放出物カーテン中粒子間相互衝突のN体数値計算(2017-2019年度)を実施した. その成果概要を以下に述べる. (a1)室内実験室スケールでは大規模な放電構造が形成されないが, 無数の光点が生成すること, (a2)分光計測の結果, 光点の光は~2000 Kの黒体放射であること, (a3)実験後には熔融を経験した物体が回収されること, 形状からこれが「光点」であった物質であること, (a4)光点に何らかの放電現象の痕跡が残っている可能性を探るため, 残留磁化計測を行う手順を確立したこと, (b1)放出物カーテンの放出速度, 放出時刻を記述する解析モデルを構築したこと, (b2) 放出物カーテン中の電荷分離過程を統計解析モデルで記述したこと, (b3) 放出物カーテン中で発生するメッシュ状パターンの形成と成長をモデル化したこと, (c1)N体計算コード「REBOUND」を用いて放出物カーテンのモデル化し, 実験室で観察される構造を再現できたこと, (c2)先行研究による電荷移動モデルを実装し, 各粒子が持ち得る電荷量, 放出物カーテン全体での電場の計算を可能にしたことである. 当初の目的を全て達成できた, とはいえないものの, 衝突雷の発生可能性を調べるための基礎研究を進めることができた.
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