研究課題/領域番号 |
17K18817
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三浦 英生 東北大学, 工学研究科, 教授 (90361112)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 機械材料・材料力学 / 解析・評価 / 構造・機能材料 / 非破壊検査 |
研究実績の概要 |
地球温暖化防止対策を推進する上で,CO2排出の主要因であるエネルギー機器の高効率化は必須課題であり,動作環境の高温化とタービン運転速度の高速化に伴う機器動作環境における力学的負荷の増加は避けられない.エネルギー機器に使用される耐熱合金では,様々な材料強化機構が適用され,単なる組成制御に留まらず,ナノスケールでの分散強化,析出強化などの微細組織制御が多結晶材料の結晶内部と結晶粒界いずれにも適用されている.しかし,使用環境の過酷化に伴い,機器の動作環境において構造材料内部で原子拡散が活性化し,強化機構が崩壊するという現象の発生が報告され始めている.最先端ガスタービンで使用されているNi基合金においてもタービンの遠心力による引張負荷と直交方向にナノメータオーダーの析出強化組織(Ni3Al:図中白色領域)が連結粗大化し,Ni基との境界近傍でき裂が発生し最終破断に到る.この組織変化は主としてAl原子のひずみ誘起拡散現象で生じることが明らかになっている. そこで,構造材料を構成する代表元素の光学的反射率の波長依存性に着目し,元素ごとに反射率が急減するあるいは増加する波長が異なることを応用し,高輝度白色光源を材料表面に照射し,特定の波長領域の反射光強度分布を測定することで,着目した元素の濃度分布を可視化できるという着想に至った.例えば,ガスタービン用の代表的な耐熱合金構成元素であるNiの光学反射率は,近赤外領域から可視光の約600 nm,の範囲ではほぼ一定であるが,600 nmから近紫外領域に向けて大きく減少する.一方上述したAlの反射率は近赤外から近紫外領域でほぼ不変である.したがって,波長628 nmのArレーザ光でNi合金を観察した結果と波長405 nmのGaNレーザで同一箇所を観察した画像を比較すると,電子顕微鏡画像と同質な情報を得ることができることを実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初提案計画通り,高輝度白色光源を使用して構造材料表面を観察し,反射光を高精度フィルターを導入して波長選別し,各波長領域の画像を分離計測,比較することで代表元素の分布の変化を大気中で観察する技術の開発をに成功した.既存の共焦点レーザ顕微鏡の光源を高輝度白色光光源に変更し,紫外線対応の対物レンズ系と受光素子系を使用して耐熱合金内の特定元素の偏析,分布状況画像が取得可能であることを実証した.これにより高輝度白色光光源から波長選択することで特定波長のレーザ光光源と同等の観察が可能であることを確認できると考えている.本実験設備を応用して大気中で観察した耐熱合金の微細組織変化は,従来高分解能の電子顕微鏡を応用してしか得られなかった情報と同等の精度の情報であることを確認し,学会等で公表,議論し国内外から高い評価を得ている. 以上の状況から,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は高輝度白色光光源の出力光から高精度帯域選別光学フィルターを用いて半値幅30 nmの準レーザ光を取り出し,構造材料表面の反射率分布を測定(観察)する技術を開発する.耐熱合金に使用される代表的な特性波長としては,例えばAlは約850 nm(反射率極小),Crは約450 nm(反射率極大),Coは約350 nm(反射率急減)などが有効であることは理論的に確認している.そこで高精度帯域選別光学フィルターと各波長領域に感度を有するセンサを高輝度白色光源とシステム化し,各種損傷を受ける耐熱合金の微細組織変化の大気中観察の実現を目指す.中心波長が異なる帯域選別光学フィルター(バンドパスフィルター)を複数準備し,フィルターを交換しながら構造材料表面から得られる反射光の強度分布を連続的に測定する.それぞれの観察画像間の輝度分布変化を画像処理により抽出することで,着目している元素分布の変化の検出可能性を検討する.微小試験片には今後産業界で活用が期待される複数のNi基とCr-Mo鋼を使用し,次世代機器の使用環境における寿命試験を実施し,高温におけるクリープ疲労環境下における材料強度信頼性データベースの構築も図る. 以上の研究により,機器動作環境の過酷化(高温高負荷化)に起因して生じる構造材料の強化微細組織のナノスケールでの崩壊過程の大気環境中における可視化技術の開発を実現する.
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