研究課題/領域番号 |
17K18828
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高谷 裕浩 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70243178)
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研究分担者 |
水谷 康弘 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40374152)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | フォトン・プローブ / 加工現象解析 / 量子もつれ / ドレスト光子 / 原子構造体 / ナノ微細加工 / ナノ機械加工 / フォトンメトロロジー |
研究実績の概要 |
本研究は,新たな散乱ドレスト光子計測の基本原理確立を目的としており,計量ドレスト光子プローブ・散乱ドレスト光子計測系の構築とそれを用いた原理検証を基本構想とするものである.本年度は,プローブ性能を左右する最も重要な構成要素である,量子もつれ光源に関する基礎的検討と実験的評価を行い,次のような研究成果[1]~[3]を得た. [1] 偏光量子もつれ光子対の発生原理に基づいた偏光量子もつれ光源の基本設計を行い,偏光量子もつれ状態の評価方法について検討した.偏光量子もつれ光子対は非線形結晶を用いたtype-I位相整合による縮退SPDCを利用した発生方法について検討した.さらに,偏光量子もつれ状態の定量的な評価方法として,CHSHパラメータ,充実度の有効性を数値解析によって示した. [2] 量子もつれ光源の基本設計を行い,有効非線形定数が3.72pm/Vと他の結晶よりも高く,かつ潮解性がないという点から,偏光量子もつれ光源に用いる非線形結晶をBiBOに決定した.type-I位相整合による縮退SPDCの発生に必要な非線形結晶への入射光には,波長402.7nmの半導体レーザを用いた.光子のエネルギーと運動量保存に基づき,波長402.7nm光子から波長805.4nmの偏光量子もつれ光子対が生成される設計仕様とした. [3] 量子もつれ光源の基本特性を明らかにするため,CHSHパラメータ,充実度の2つの指標を測定評価した.CHSHパラメータの値は2.71となり,2を超える値が得られた.さらに,充実度の測定結果も0.976となり,0.5を超える値が得られた.以上のことから,偏光量子もつれ光源から偏光量子もつれ状態が生成されていることが示された.また,偏光量子もつれ光源で生成された偏光量子もつれ光子対の数が0.354 coincidences /s であると見積もられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
量子もつれ光源の基本設計は,プローブの性能を十分配慮して行う必要がある.そのため,特に入力光源の波長域や出力,非線形結晶の選定などを進める際の検討項目が多く,数値解析等による解析結果に基づいて,量子もつれ光源の仕様・性能を慎重に検討したため,光学系構成や光学素子の選定などに多くの時間を要した.また,量子もつれ光源の出力特性に大きな影響を与える非線形結晶BiBOは,設計検討に基づいた特殊な寸法・形状を本研究独自に開発したものである.そのため,加工精度,結晶品質などの要求仕様を満足する素子の納期が長期となり,実験開始の時期が当初計画より大幅に遅れた.以上のような理由で,量子もつれ光源の光学系の構築が完了するまでに予想が困難な時間を要した上,光源の量子工学的な基本特性を検証するための,同時計数計測系の主要素子であるフォトンカウンタに予期できない初期不良が見つかったため,基礎実験への着手が当初計画よりも数ヶ月遅れた.量子もつれ光源および同時計数計測系の動作検証を行った後,偏光量子もつれ状態測定評価を遂行した.この実験においては16通りの直線偏光方位の組み合わせで測定された同時計数を用いて,波動関数と密度行列を推定した.測定された同時計数と推定された密度行列を用いてCHSHパラメータと充実度の測定から偏光量子もつれ状態を評価した結果,測定光源としての安定性と基本性能に課題が見いだされた.その原因を調べたところ,偏光量子もつれ光子対の数が少ないことが大きな原因であることが判明した.本年度の当初計画では,プローブ計測系・基本光学系を設計・試作し,フォトン検出特性を調べる光学系動作検証実験を遂行する予定であったが, 偏光量子もつれ光子対の数が少ない場合,当該実験を遂行することができないため,偏光量子もつれ光源の課題解決を優先したため,進捗状況として「やや遅れている」との評価を行った.
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今後の研究の推進方策 |
今回,偏光量子もつれ光源を試作したが,この光源により発生している偏光量子もつれ光子対の数が少ないことが明かとなった.そのため,外乱光による影響や,電気的なノイズの影響が大きく,偏光量子もつれ光子対の発生数がプローブ特性評価の為に十分な量であるとはいえない.偏光量子もつれ光子対の数は入射レーザのエネルギー密度を高めることによって増加する可能性があるが,レンズでビーム径を小さくしてエネルギー密度を高める方法では,レーザ光をコリメート状態で使用する場合と同程度までビームの広がり角を抑えることが困難である.また一定以上の入射角を持って非線形結晶に入射した光は偏光量子もつれ光子対の発生に関与できない.以上を考慮すると,入射レーザをより出力の大きい入射レーザに交換し,量子もつれ光子対の発生に用いることでこの課題を改善可能であることが明らかとなった.そこで今後は,偏光量子もつれ光源の性能が要求仕様を満足するように改善を進め,プローブ計測系の構築およびその動作特性の検証を進める.プローブ計測系の構成は,端面に半透膜を成膜したガラスファイバと,散乱ドレスト光子を効率よく集光するために先端を球状にレーザー加工し,表面に半透膜を成膜したマイクロガラス球を,カプラを介して光ファイバで接続する.初期照明のアイドラ光子も同カプラに接続された光ファイバによって導入され,マイクロ球から放射される.散乱ドレスト光子の再入射を繰り返し,周波数シフトを自己増幅することによって,フォノンの検出感度を高感度化する.さらに,フォノンの励起パルス光としてフェムト秒レーザーを原子構造体に集光・入射し,散乱ドレスト光子の検出を試みる.測定試料として,物性の異なる,単結晶シリコンウェハ表面および銅薄膜蒸着石英基板表面の原子構造体を利用し,検出された散乱ドレスト光子のラマン散乱特性解析を行う.
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