本研究では金属塊材への曲がり穴加工法を確立するため,電極球を固定しないつり下げ電極による放電加工の検討を実施した.非固定の電極では,通常の放電加工と異なる加工特性が現れると予測されたため,まず初年度において従来の固定電極の場合と比較しながら放電加工特性の解明を行った.その結果,高い電流ピーク値やパルス幅の長い条件の場合,つり下げ部の発熱等でつり下げ部が断線しやすいこと,極間距離が小さい条件では加工が不安定になりやすいことが判明した.そのため,比較的小さい電流値で,極間距離が確保できる加工条件では安定した加工状態が実現できた.また,パルス幅については電極消耗を抑える必要があるために100マイクロ秒程度が望ましいと判断した. 2年度目には,電極球材質やサイズが加工特性に及ぼす影響についても検討を行い,電極球の質量が大きいほど,電極球の過度の揺れを抑えることができ結果として加工状態が安定することが判明した.また比重が大きく電極消耗の小さい銅タングステンが材質として最適であった.また,つり下げ部分には薄い銅箔を用いることによって,曲がり穴に沿って変形する柔軟性とある程度の放電電流を流すための断面積を確保できることが明らかとなった. さらに,最終年度において工作物に数100ミクロンの微振動を付与することで短絡状態を防止できることから放電状態を安定化でき,結果的に加工速度が2倍程度向上することが分かった.また,加工粉の滞留によって加工継続が不能となった場合でも,工作物振動を付与すれば加工穴内部の加工粉を除去した後に容易に加工再開が可能となることも判明した.さらに,複雑形状の曲がり穴や金型コア内の冷却穴の曲がり穴加工を試み,十分な実用可能性を示すことができた.また,超硬合金やチタン合金に対する曲がり穴加工の可能性も示した.
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