本研究課題の主目的は、iPS細胞由来心筋細胞を用いて作製した細胞シートと、生体適合性ポリマーを用いて作製した3次元足場構造体を組み合わせて、自律的に収縮と弛緩を繰り返すバイオポンプの開発である。最終年度である本年度の目標は、バイオポンプの試作であったが、ポンプ状構造体の作製までには至らなかった。得られた主な研究実績は以下の通りである。 (1) iPS細胞由来心筋細胞を用いて細胞シートを作製し、高速度撮影装置と画像解析装置を組み合わせた心筋拍動解析システムを用いて、拍動挙動の定量的評価を実現した。さらに、画像相関法を用いて、細胞シートの拍動挙動にともなう変位場とひずみ場の定量的評価に成功し、拍動とひずみ変化の関係性が明らかになった。 (2) 生体適合性にすぐれるゴム系材料であるPDMSを用いて、中空球形の3次元足場構造体の作製に成功した。この表面に心筋細胞シートを貼り付けることで、拍動するポンプ状構造体の作製が可能となる。また、足場構造体表面にフィブロネクチンをコーティングすることで表面改質を行い、細胞シートの接着性を向上させることに成功した。 (3) 上述のPDMSを平面シート状に加工し、フィブロネクチンでコーティング後、心筋細胞シートを貼り付けることで、心筋細胞と足場材料の2層構造体の作製に成功した。さらに、2層構造体の自律的拍動挙動を確認し、心筋拍動解析システムを用いて拍動の定量的評価に成功した。 以上、心筋細胞シートとゴム系足場材料の2層構造体の開発に成功し、自律的拍動挙動を確認したが、3次元的な中空球形のポンプ構造体の作製までには至らなかった。拍動するポンプ構造体の開発については、今後の検討課題としたい。
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