研究課題/領域番号 |
17K18842
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
津島 将司 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30323794)
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研究分担者 |
鈴木 崇弘 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90711630)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 二次電池 / スラリー / 多孔質電極 / イオン電子輸送 / 熱工学 |
研究実績の概要 |
本研究では,リチウムイオン二次電池の有する高エネルギー密度とフロー電池の有する外部からの活物質の供給という特長に着目し,固相活物質粒子の供給・充填・回収が可能でかつ,高エネルギー密度を有する新規なフロー電池(スラリー電池)を構築することを目的としている.本年度は,蓄電デバイスとしての動作コンセプトの実証として,電極材料として負極にチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)粒子,正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2)粒子を採用して,固相活物質粒子の供給・充填および充放電の実証についての研究を進めた.その際,高い導電性を有する多孔質材料をマトリックス電極として適用することが可能なスラリー電池系をフルセルおよびハーフセルについて設計し,セル内に水分の混入を防ぐため,露点を管理したアルゴン雰囲気下のグローブボックス内でセルを組み立て,スラリー電解液の調合および注入を行うことが可能な実験系を構築した.多孔質マトリックス材料として,耐腐食性,耐酸性を有する網状金属材料に着目し,電気化学的な空隙構造の制御手法を確立した.その上で充放電特性実験を行い,電流効率,エネルギー効率について調べ,導電性多孔体と導電助剤を組み合わせることで活物質粒子利用率すなわち有効表面積が増加し,活性化過電圧を大きく低減できることを明らかにした.リチウム金属を対極としたハーフセルによる充放電特性実験から,導電性多孔体の挿入効果は正極で大きいことが示された.加えて,充放電の繰り返しサイクル実験を行い,充電後期の電圧変動挙動が正極と負極で異なり,正極において容量維持率の低下が顕著であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
リチウムイオン二次電池の有する高エネルギー密度とフロー電池の有する外部からの活物質の供給という特長を有するスラリー電池について,研究開始初年度において,固相活物質粒子の供給・充填および充放電を実証するスラリー電池を設計し,実験系を構築できたことに加えて,導電助剤および導電性多孔体電極が充放電特性に及ぼす影響についても評価することができた.その際,導電性多孔体電極について,市販の網状金属材料では空隙率が68%と低いことが懸念されたが,電気化学腐食反応を用いて空隙率を88%にまで高めることに成功し,かつ,集電材料として適用可能な強度を保つ処理方法を見出すことができた.負極のチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)粒子,正極のコバルト酸リチウム(LiCoO2)粒子の電池内への充填についても,フィルター材料の選定ならびにスラリー漏出を抑制するセル構造の改良など,個別に現出した課題を解決しながら研究開発を進めることができている.その結果,スラリー電池として20mA/cm2を超える電流密度での放電を実現し,さらに,サイクル特性についても,現時点で,容量維持率,クーロン効率ともに90%を超えている.充放電特性ならびにサイクル特性の支配因子を特定するためにハーフセルを構築し,正極,負極のそれぞれについての基礎的な知見も得られてきている.今後,これらの知見にもとづき,固相活物質粒子の供給・充填・回収を可能とする高性能なフロー電池(スラリー電池)が実現できる状況にあると考えている.これらは,いずれも当初の計画を上回るものである.
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今後の研究の推進方策 |
研究開発2年目において,フロー電池(スラリー電池)系における固相活物質粒子の供給・充填に加えて,回収と充放電についての動作コンセプトの実証を行う.具体的には,逆行流を用いた流動制御により放電後の活物質粒子の回収を実現し,その後の再充填についても検討を行う.その際,スラリー電池内での活物質粒子の充填分布ならびに活物質粒子の利用率を実験的に明らかにし,活物質粒子を含んだ固液懸濁液の流動制御について基礎的な知見を獲得する.特に,スラリー電池電極における導電ネットワークの形成について,導電助剤の材料特性および空間占有率がスラリー電池性能とエネルギー損失に及ぼす影響に関して基礎的な検討を行う.これにより,高性能フロー電池の創出に不可欠な導電ネットワークの形成について,固相活物質粒子の供給・充填・回収に加えて,エネルギー損失の最小化を実現する電極構造制御についての検討を行う.これらの研究開発を実施することにより,研究期間内において,①活物質粒子と導電材料の統合による電極内導電抵抗の低減,②スラリー電池電極の電気化学特性評価と高活性電極構造の探索を進め,③活物質粒子の供給・充填・回収を実現する新規なフロー電池(スラリー電池)の構築と高性能化を実現する.これらの研究を通じて,多孔質電極における固液混相流とイオン・電子輸送の基礎的解明とともに,学際領域にまたがる新分野(スラリー電池工学)の開拓につなげる.
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