研究課題/領域番号 |
17K18843
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
鶴田 隆治 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (30172068)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 生物製剤 / タンパク質 / マイクロ波乾燥 / ガラス化 / 常温乾燥 |
研究実績の概要 |
近年の医療分野において,タンパク質,酵素,ペプチドなどの生体高分子を用いた生物製剤の利用が急速に進んでおり,その製造技術の高度化が新規薬剤開発において極めて重要になっている.その機能を失活させない製造技術として凍結乾燥法が多く用いられているが,冷凍過程での氷晶形成による損傷や,氷晶の昇華に長時間かつ膨大なエネルギーを要するなどの大きな課題があり,製薬メーカーにおいては革新的な技術の登場が望まれている. この要望に応えるべく,本研究では研究代表者が開発したマイクロ波常温(真空)乾燥技術に注目し,常温状態のままで超急速な水分蒸発によるガラス化を実現する画期的な方法を提案するとともに,その有効性を示すことに取り組んでいる. 具体的には,生物製剤として卵白(アルブミン)やリゾチーム等のタンパク質水溶液を用い,主たる手法であるマイクロ波常温(真空)乾燥(MVD)とともに,凍結乾燥(FD)および両者の組合せであるMVD+FD複合乾燥の3つの方法で乾燥を行い,タンパク質の構造解析や残存活性の測定を行って品質評価を実施している. その結果,3つの乾燥法のいずれにおいても(マイクロ波を用いる場合には常温乾燥を行う限り),卵白アルブミン,リゾチームともタンパク質構造を維持でき,活性も残存することが確認できた. また,マイクロ波常温乾燥による乾燥処理時間の短縮も確認したが,特に,静的なフィルム状乾燥から気泡形成を伴うダイナミックな乾燥を実現すれば,乾燥処理時間を極端に短縮できることを新たに見出した.フィルム状のガラス化ではなく,多孔性のガラス化となっており,空隙部の存在により,乾燥速度が大幅に増大するとともに,水への溶解性も増して,フィルム状に行うマイクロ波常温乾燥の溶解性についての短所を補うことが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画した卵白アルブミンとリゾチーム水溶液を用いた3つの乾燥法(マイクロ波常温乾燥MVD,凍結乾燥FD,両者の複合乾燥MVD+FD)による乾燥と,乾燥後の構造解析を行い,いずれの乾燥によってもタンパク質構造が維持されていることを確認した.なお,MVD+FDは,凍結乾燥の前にマイクロ波常温乾燥による予備脱水を施す方法であり,組織内の水分を予め取り除くことにより,最大氷晶生成帯を通過する時間が短くなり,凍結温度が低下して氷晶サイズも小さく,乾燥物への機械的ストレスを低減できる.また,多孔質構造が維持され,溶解性が向上するという利点を持っている. 乾燥速度については,FD,MVD+FD,MVDの順に乾燥速度が速くなることを確認したが,卵白アルブミンのMVDにおいてマイクロ波強度を高めることにより泡を形成すれば,乾燥速度が大きく短縮できることを見いだした.そして,たとえ泡立つほどのマイクロ波照射を行なっても,乾燥後にはタンパク質構造が維持できていること,加えて水への溶解性も高まることも明らかにしている. また,リゾチームに対して細菌細胞壁ミクロコッカスルテウスの細胞壁分解活性能を紫外線可視分光光度計(UV)にて測定し,リゾチームが失活せずにミクロコッカスルテウスを分解すること,すなわち活性を維持できていることも検証している. さらに,リゾチームは熱変性温度が比較的高く,熱に強いタンパク質であるため,熱変性温度がこれよりも低いプロテアーゼを用いた乾燥実験を行い,その変性温度を実測して把握するとともに,MVDを行なってもその分子構造が維持されていることが確認できた. 以上の内容から,当初の計画以上に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
まず,従来のマイクロ波常温乾燥による静的なフィルム状乾燥に比較して,乾燥速度と溶解性において優れた特性を示したマイクロ波バブルフォーミング乾燥法の特許化を目指す.マイクロスケールの気泡を形成する発泡乾燥により,綿アメ状となり,これまでに無い乾燥品を得ることが期待できる.この方法を,製薬分野に加えて,プラセンタやコラーゲンなどの美容健康素材の製造技術にも応用できるよう研究調査を開始する. また,水分とタンパク質系物質とを含有する液状原料からの濃縮液や乾燥物を製造できるため,その際に必要となるタンパク質の熱変性温度,および濃縮濃度によって変化するガラス転移温度の計測を行い,マイクロ波乾燥の温度条件と,凍結乾燥を併用した複合技術とする場合の濃縮条件の最適化について検討したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画では,分光光度計を購入する予定であったが,凍結乾燥機の購入を優先しなければならない事態が生じたため,分光光度計は学内の他学科にある設備を利用することとした. また,知的財産になりうる新たな知見が得られたため,学会発表を控えることになり,予定した旅費を一切使わないことになった. 以上の2点が次年度使用額の生じた主要因である. 次年度では,国際学会発表旅費に当てるとともに,効果の幅広い検証を行うために,高額なタンパク質をも対象とした実験を行う必要があり,そのために使用したいと考えている.
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