研究課題/領域番号 |
17K18847
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
染矢 聡 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究グループ付 (00357336)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | 流体計測 / 可視化 / 圧力 / 速度 / 機能性粒子 / 中空カプセル |
研究実績の概要 |
本研究では感圧性中空マイクロカプセルを開発する.騒音問題や高速移動体における空力問題の解決には空気中の圧力分布の把握が重要であるが,これを実現する術はまだない.酸素分圧に応答して発光特性が変化する燐光分子を殻にドープし,内部を中空として浮遊性を高めた,中空マイクロカプセルを開発できれば,粒子の移動量から流れの速度を,燐光の発光特性から空気中の酸素分圧を同時に可視化計測することが可能となる.本研究ではカプセルの殻となる高分子樹脂,感圧性の燐光分子とこれらの溶媒,分散媒の種類や粘度などの物性を変化させつつカプセルの開発を進める. 本年度は上記の中空マイクロカプセルを合成した.水中に分散させたカプセルが,水中の溶存酸素濃度に応答することを確認できた.そこで,凝集を防ぎつつ,気体用の粒子として分散媒から取り出すことに成功した.合成条件によって,取り出しに要する時間や歩留まり,粒子径や凝集性などが大きく変化したため,作成手順の最適化を行った. 圧力と速度を同時計測するためには,355nmや532nmなどの波長のパルスレーザーで励起可能であることが望ましい.本年度は2種類の燐光分子についてカプセル作成を行い,一方は532nmで励起できることを確認した. 作成した粒子の圧力応答性を評価するため,圧力と温度を調整可能な透明容器を作成し,圧力に応答することを確認した.本年度はまず,発光強度が圧力に応じて変化することを確認した.また,応答速度を評価するための試験装置を設計した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は感圧性の中空マイクロカプセルの合成に成功した.特に,凝集を防ぎつつ,気体用の粒子として分散媒から取り出すことに成功した点で,初年度としては順調な成果を得たとと言える.合成条件によって,カプセルの取り出しに要する時間や歩留まり,粒子径や凝集性などが大きく経化した.カプセルの取り出しには10日以上の時間を要することもあるため,その最適化は容易ではなく,簡便にカプセルの抽出を実現できる手段の模索を常に続けている.最終的に気流計測用のトレーサーとすることから,気流への追随性が重要であり,そのためには粒子径をできる限り小さく,かさ比重を小さくすることが重要である.かさ比重が小さいときには,殻が薄く,圧力変化への時間応答性も高まると考えられる.一方,粒子の強固さ,明るさも実際の画像撮影の観点では重要である.応答性や流体追随性など多くの要件があるため,カプセルの特性評価と並行して,合成条件の最適化を進めている.これらの最適化は当初,平成30年度に開始する予定であったが,先行して着手している. 作成した粒子の圧力応答性を評価するため,圧力と温度を調整可能な透明容器を作成し,圧力に応答することを確認した.本年度はまず,発光強度が圧力に応じて変化することを確認した.可視光や紫外光に対する透明性と密閉性を兼ね備える必要があるため,数回の改造を要したが無事に完成した.
|
今後の研究の推進方策 |
マイクロバブルを核としたカプセル製法は,分散媒とガスの物性に依存するマイクロバブルのサイズによってカプセルサイズが決まるため比較的均一な粒径のカプセルを作成できる.有機溶媒が分散媒に溶出し,最終的に揮発するまでの間,バブルが長時間水中に留まる必要がある.これら物性や製法の制約から,カプセル粒径を大きく変化させることは容易ではない.ここでは,溶媒種類,溶質濃度,合成温度に加え,分散媒である水溶液の特性をパラメータとして,カプセル粒径との関係を明らかにする.まずは,粘度制御や界面活性剤の添加をパラメータとして開発を行う. 特に気流への追随性や浮遊性の高い粒子は,分散媒に対する分散性も高いため,固液の分離回収が困難であると考えられる.この点について,適切な分散媒パラメータ,回収条件を見出し,トレーサ作成を実現する. この一連の最適化プロセスの一部は平成29年度に既に着手しており,これを継続して実施する.粒子径,かさ比重,凝集性,ドライな状態でのカプセル回収法と回収効率,乾燥中の浮遊性のバランスを試行錯誤しながら開発を進める.粒径を制御して1.5~3.0μmの中空カプセル作成を目指す.
機能性マイクロカプセルの光学特性評価: カプセル化手法最適化と並行して,粒径分布,感圧性,発光効率,スペクトルや寿命など光学特性の評価を行う.光学顕微鏡,カメラ,分光器や光電子増倍管を用いて,圧力分布の定量可視化用トレーサカプセルとしての性能を評価する.大型スピーカーを共鳴管に取り付け,圧力パルスへの応答性の評価を可能とする装置の製作を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初はカプセル合成のための攪拌システムや乾燥機の導入を想定していた.また,圧力応答性の試験を行うため,温度と圧力を制御できる透明容器の複数回の製作を想定していた.7月の採択後に順調に研究を進めるため,攪拌システムや乾燥機を一時的に借用できることになった.また,応答性の評価容器は1度の試作の後,自ら改造,補修をすることで利用できる状態になった.以上により,予定通りの研究を進めつつ,初年度の経費を節約することができた.これを活かし,次年度は当初3年目に計画をしていた時間応答性評価試験機を先行して導入し,研究を進めることを想定している.
|