研究課題/領域番号 |
17K18864
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 茂雄 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (10282013)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 量子計算 / 学習 / アルゴリズム / 脳型計算 / 超伝導量子ビット |
研究実績の概要 |
申請者らが提案している脳型量子計算アルゴリズムでは、ニューロン間相互作用を量子ビット間相互作用に変換することにより、人工神経回路での計算手法(最適化問題への応用など)を、量子計算に応用することが可能となっている。この際、ニューロン間相互作用を表現するシナプス荷重値行列が、量子ビット間の相互作用を決定するハミルトニアンに変換される。また、量子ビット回路の状態遷移はハミルトニアンの断熱的変化、すなわち、すべての量子状態が基底状態を構成する初期ハミルトニアンから、解くべき問題に対応するハミルトニアンへの準静的変化によって引き起こされる。 本年度は、昨年度の成果を基に、量子計算アルゴリズムを自動獲得しうる断熱的量子計算用ハードウェアの構成について検討した。量子ビットハードウェアの中で最も研究が進んでいる超伝導量子ビットに着目し、特に超伝導電荷量子ビットネットワークを用いて構成する方法を具体的に検証した。その結果、電荷量子ビットを構成するジョセフソン接合のジョセフソンエネルギーと結合器を構成するジョセフソン接合のジョセフソンエネルギーの比が、ある値より大きい場合は抑制性結合、ある値より小さい場合は興奮性結合をそれぞれ実現できることを明らかにした。また、量子ヘブ・量子反ヘブ学習則に従って結合器のジョセフソンエネルギーを最適化した場合の量子連想記憶性能について数値計算により評価した結果、学習によって連想機能を獲得しうることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
量子計算アルゴリズムを自動獲得しうる断熱的量子計算用ハードウェアの構成について検討を進めており、超伝導量子ビットを用いた具体的な実現方法を明らかにしている。断熱的量子計算の性能は量子系のエネルギー構造に大きく依存するため、ハードウェアの構成を考える上で、予め、想定する量子ビット材料の物性値を考慮した数値計算により計算性能を評価しておくことが有効である。そうした背景から、本年度は数値実験の精緻化に向けて、数値実験に用いる超伝導体物性データの一部を物理実験により求めることを予定していたが、サンプルを冷却するために用いる希釈冷凍機が故障したため、本実験の遂行に支障が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
改めて、数値実験に用いる超伝導体物性データの一部を物理実験により求めることより、数値実験の精緻化を図る。次に、ジョセフソン接合やSQUID、各種フィルタを構成要素とする超伝導量子回路を構成し、実験データを反映した超伝導量子ビットの数値実験を行い、量子回路での学習動作を評価する。提案ハードウェアの有効性と問題点を明らかにする。ハードウェア上の制約に由来する性能劣化が認められれば、これについて検討を加え、学習則の改良を図る。 提案アルゴリズムにおいて、ビット数の増大に伴い、確率は小さいものの正解でない状態も基底状態として埋め込まれる可能性がある。このような問題への対応として、超伝導ジョセフソン分岐増幅器(JBA)を用いた状態観測による、擬似的な量子状態確率振幅の増幅効果について検討し、有効性を検証する。また、ネットワークを分割して実装することなど、大規模化を意識した実装方法についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
数値実験の精緻化に向けて、数値実験に用いる超伝導体物性データの一部を物理実験により求めることを予定していたが、サンプルを冷却するために用いる希釈冷凍機が故障したことにより、本実験の遂行に支障が生じた。そのため、研究期間を延長し、次年度も研究を継続することとなった。次年度は、今年度に予定していた研究の残り部分をそのまま遂行予定であり、研究費の使用計画自体も当初の予定通りである。
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