研究課題/領域番号 |
17K18880
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真田 篤志 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20264905)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | メタマテリアル / メタ表面 / エバネセント波 / 回折限界 / サブ波長解像 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者が提案している伝送線路理論に基づくメタマテリアルの媒質構成理論を基に、広帯域かつ低損失にエバネセント波を生成・操作するためのメタ表面の構成理論を構築し、回折限界を超える結像を実現することを目的とする。本目的を達成するため、本研究では1.回路論に基づくメタ表面の構成理論の構築、および2.サブ波長解像の実証実験、を目標としている。 本年度は、まず目標1のメタ表面の構成理論の構築に成功した。メタ表面への表側からの既知の入射電磁波に対して、裏側で任意の振幅と位相を持つ透過波を生成するための離散化されたメタ原子のモデルを提案した。マクスウェル方程式の境界条件により要求されるメタ表面上に必要な電流密度分布および磁流密度分布を求め、これと等価な電気ダイポールモーメントと磁気ダイポールモーメントを持つメタ原子を2端子対回路網モデルで表し、そのイミッタンスパラメータを求めた。この際、通常は実数となる自由空間の波動インピーダンスが、エバネセント波の生成に伴い複素数となることが新たにわかった。これにより劣化の極めて少ない解像のための設計が可能であることを回路シミュレーションにより示した。 続いて、目標2のサブ波長解像の実証実験に着手した。通信等で用いられているISMバンドである2.45 GHz(波長122.4mm)の電磁波に対して、本理論を用いてサブ波長解像を実現するメタ表面を設計した。波長の10分の1だけ離れた2スポットのサブ波長像のスペクトラル領域における解像に必要なエバネセント成分を算出し、逆伝搬法を用いてメタ表面上で生成すべき増強されたエバネセント波の分布を求めた。次に、メタ表面の物理構造を決定した。3層構造による回路トポロジーにより所望のパラメータ値を理論的に決定可能であることを示し、3次元電磁界シミュレーションにより、理論モデルと等価な応答を示す構造最適化を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目標である、2つの研究目標のうち、まず目標1のメタ表面の構成理論を構築し、その妥当性を回路シミュレーションにより理論的に示すことができた。理論面では、任意の応答を再現可能な3層構造の回路トポロジーが求まり、これを用いてエバネセント波生成が可能であることを回路シミュレーションにより示した。また、自由空間の波動インピーダンスが複素数として与えられることが新たに分かり、これにより劣化の極めて少ない解像の設計が可能となった。 続いて、目標2のサブ波長解像の実証実験に着手した。本理論を用いたサブ波長解像を実現するメタ表面の設計と、3次元電磁界シミュレーションによる理論モデルと等価な応答を示すメタ表面の物理構造が高精度に決定可能であることを数値的・実験的に示した。これにより当初の計画以上にサブ波長解像メタ表面の設計を完了することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き2つ目の目標であるサブ波長解像の実証実験を進める予定である。 まず、前年度設計したサブ波長解像メタ表面を試作する。高周波用の誘電体基板2枚を用いて3層構造の金属パターンをフォトリソグラフィにより作製する。同時に、金属パターンの作製精度や基板の誘電率のずれが像へ及ぼす影響を、3次元電磁界シミュレーションおよび試作実験により数値的および実験的に調べる。 続いて、ベクトルネットワークアナライザを用いた近傍電磁界測定システムを構築し、回折限界を超えるサブ波長解像動作を検証する。試作したメタ表面に対して、ホーンアンテナを用いてマイクロ波を照射し、像面上の電磁界分布を電気プローブおよび磁気プローブを用いて測定する。測定結果を理論およびシミュレーション結果と比較することでサブ波長解像が得られているかどうか調べる。この際、急速に減衰する微弱なエバネセント波を高精度に測定する必要があるが、測定パラメータの最適化や雑音対策等を施し対処する。また、エバネセント波を含む像の解像にはプローブ自体の測定分解能の向上が必要であると考えられるが、これにはプローブ構造の最適化や偏波特性を考慮した測定系のチューニングにより対処する。もし、サブ波長解像の実証に成功すれば、1スポットのサブ波長像など別の像に対する試作検証も追加して行う。 なお、得られた結果は随時論文にまとめて発表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していた実験による構造最適化設計が、この周波数帯では費用のほとんどかからない電磁界シミュレーションにより高精度に行えることが判明したため、最適化のための試作費用および測定評価のための人件費が削減できた。これにより、研究は予定よりも早いペースで試作検証段階に進んでいる。これに伴い、今後、予定より多くの追加のサブ波長解像動作検証実験が可能であり、繰り越した構造最適化のための試作経費等は、この追加の動作検証のための試作実験の費用に充てる予定である。
|