研究課題/領域番号 |
17K18881
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
酒井 朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20314031)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 酸素空孔 / トポロジー / メモリスタ / 電気着色現象 / 不可逆領域 / 走査透過電子顕微鏡 / 結晶場分裂 / 有限要素法シミュレーション |
研究実績の概要 |
当該年度は、熱還元処理によって酸素空孔を導入した、面方位(100)および(001)のTiO2単結晶基板に数十μmスケールの4端子微細電極を形成し、電気的特性を調べた。電圧印加に伴う酸素空孔の分布変化を電気着色現象に由来するコントラストとして光学顕微鏡観察し、そのトポロジーの変遷に依存して抵抗値が不揮発かつ可逆的に変化するメモリスタ特性を確認した。種々の素子特性は基板面方位に顕著に依存し、(100)基板では(001)基板に比べて抵抗比は大きいものの、抵抗スイッチング繰返し耐性は劣ることが分かった。これは酸素空孔トポロジーの変遷過程において端子間で繋がった酸素空孔集積領域が断裂することにより、電極周囲に過度に酸素空孔が集まり、導電率の高い不可逆領域が形成されるためである。繰返し耐性向上には、こうした酸素空孔分布の偏りと不可逆領域の生成を抑制する必要があり、それには正負電圧印加における注入電荷量を等しくすることが鍵となる。繰返し耐性に優れている(001)基板では、(100)基板で見られる不可逆領域は観察されない。素子の電気活性領域を集束イオンビーム加工で局所抽出し、走査透過電子顕微鏡の原子直視Zコントラスト法を用いた原子分解能分析を行った結果、同領域にはせん断面等の原子配列の乱れを表す構造は存在しないことが分かった。一方、同ナノプローブ電子エネルギー損失分光分析では、同領域においてTiとO の結晶場分裂の緩和が検出された。こうした明確な結晶学的構造変化を伴わず、電子状態の変化が抵抗変化に支配的に寄与していることが、優れた繰返し耐性の根拠であると推察される。また、(001)基板上素子を想定した系について、実験条件に則した電圧印加プロトコルで酸素空孔トポロジーが如何に変化するかを有限要素法によりシミュレートし、酸素空孔密度分布と抵抗スイッチング特性の相関に関わる予備的な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、TiO2単結晶基板の面方位の違いが電圧印加による酸素空孔トポロジーの変遷に如何に影響するかを検証し、各系の素子に対して、メモリスタ特性と素子の結晶学的構造・電子構造との相関について重点的に調べた。その結果、従来のメモリスタ素子の抵抗スイッチング機構(フィラメント機構や界面機構)とは一線を画す、酸素空孔(ドナー不純物)密度分布の変遷とそれによるバルク電気伝導変化を発現機構とするメモリスタを実現することができた。また、酸素空孔トポロジーの制御性に優れる素子構造を設計するうえで肝要となるデバイス構造やサイズ、扱う材料(TiO2)の物理定数、素子に対する外場の効果等を取り入れた有限要素法シミュレーション法も立ち上げ、その成果も含めて学会発表にまで結びつけた。以上より、当該年度の研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度までに構築した技術をもとに、TiO2結晶を中心に種々の多端子メモリスタ素子を作製し、それらにおける一対の端子間の電気伝導率を、他端子への電圧印加と静的・動的に同期させて計測し、酸素空孔トポロジーに依存する抵抗遷移特性を調べるとともにその機構解明を行う。また、トポロジー制御された種々のサンプルに対して、電気伝導を駆動する2つの端子とその他を修飾端子として設定し、多元シナプス素子としてのニューロモルフィック機能を検証する。具体的には、列数・強度・幅・周波数等をパラメータとしたパルス電圧もしくは周期的/一定連続電圧を入力し、出力電流を検出することで、駆動端子間で生ずるニューロモルフィック特性を計測する。特に、シナプス素子としての機能を検証するために、シナプス前および後細胞体からの発信に見立てた入力信号を駆動端子に与え、両者の発信時刻差に依存した電気伝導率変化や修飾端子からの信号入力による変調効果を調べる(スパイク時刻依存シナプス可塑性特性)。また、抵抗遷移挙動が、駆動・修飾端子への入力パラメータや時間に依存して如何に変化するのか、抵抗値の緩和挙動や保持力特性、繰返し耐性を計測し、素子の可塑性を検証する(短期増強、長期増強、状態保持力、繰返し耐性特性)。さらに、駆動端子への入力と相関する信号を修飾端子から入力し、双方の入力時刻差や強度差に依存した電気伝導率の変化を調べる(連合学習機能特性)。以上より、多様な信号伝達特性を有する多元シナプス素子の創製を図る。
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