当該年度は、熱還元処理によって酸素空孔を導入した、面方位(001)のTiO2単結晶基板に4端子電極を数十μmスケールで正方配置し、電気着色現象による酸素空孔分布トポロジーの観測とそれに依存するメモリスタ特性を調べた。4端子の内、一つの対向電極対(ゲート端子)への電圧印加によって、もう一方の対向電極対(駆動端子)間の酸素空孔分布が変化し、印加電圧の正負に従って分布のトポロジーが切り替わる様子が観察された。この4端子メモリスタ素子のシナプス機能として、ゲート端子に電圧印加して酸素空孔分布を変化させた後に、駆動端子間にパルス電圧を連続印加した際の抵抗変化特性を検証した。パルス幅が長いほど顕著な抵抗値変化が生じると同時に、パルス印加回数の増加に伴う段階的な抵抗変化が起こり、これにより、素子の抵抗値の多値化、すなわちシナプスの精細な重み変化を実現することができた。また、抵抗変化の繰り返し特性を向上させるうえで、過度な重み変化の誘発を防ぐ電圧印加プロトコルも開発した。これは、駆動端子に加えて、ゲート端子にも同時に電圧印加することで、駆動端子間の酸素空孔分布の広がりを抑えるメカニズムに依っており、ゲート印加を用いない場合に比べて抵抗スイッチングの繰り返し数を大幅に増加できる。これらの結果から、電圧印加方法に多様性を持たせた多次元(4端子)での酸素空孔分布トポロジー制御の有効性とシナプス素子としての多値化を含めた抵抗変化特性の超精密制御の可能性が示された。 一方、昨年度に引き続き、上記4端子メモリスタ素子の抵抗変化特性の理論的解析を目的として、ドーパントのドリフトと拡散を考慮した有限要素法シミュレーションモデルの開発を進めた。その結果、実験的に観測された酸素空孔分布に対応するドーパント分布を得ることができ、それに対応する抵抗変化の挙動を再現することができた。
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