研究課題/領域番号 |
17K18882
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
尾崎 雅則 大阪大学, 工学研究科, 教授 (50204186)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 液晶 / 有機半導体 / 結晶 / 結晶多形 |
研究実績の概要 |
近年、液晶の自己組織的な分子配向性を電子デバイスへ応用する研究が盛んになっている。しかしながら、液晶の分子配列はナノオーダー秩序であり光学デバイスには十分であるが、オングストロームオーダーの秩序が求められる電子デバイス応用を考えた場合、液晶の分子配列では不十分である。そこで、本研究では、液晶と結晶のさらに中間的な状態「ソフトクリスタル」を提案した。すなわち、液晶を、その柔軟さを担保したまま結晶化することにより、電子材料として求められるÅオーダーの高い電子秩序と、自己組織化によるメートルスケールの分子配列秩序を両立するソフトクリスタルの実現を目指して、主に、柔軟な側鎖を持ちフタロシアニン骨格を有する有機半導体を用いてその分子配列制御を試み、次の成果が得られた。(1)バーコート法により成膜した単結晶薄膜の結晶方位、分子パッキング方向の評価をX線構解析により明らかにするとともに、結晶多形制御に関する知見を得た。(2)スピンコート薄膜を液晶相温度に加熱した後、過冷却状態から接種凍結を行うことにより配向性単結晶薄膜が作製できるが、その際発生するクラックを導電性高分子P3HTの添加により抑制できることを見いだした。(3)スピンコート法により作製した薄膜多結晶に溶媒蒸気処理を施すことにより、結晶多形転移を示すことを見いだし、理論上高いキャリア移動度が期待できるα相単結晶薄膜の作製に成功した。(4)分子配向させたフタロシアニン薄膜のキャリア移動度を、Time of Flight法、Photo-CELIV法を駆使して評価し、さらに、DFT計算による結果との比較を行い、移動度の温度依存性に関する検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の当初研究計画として、(1)分子配列秩序ならびに運動性の評価、(2)キャリア伝導機構の評価およびシミュレーション、(3)溶媒蒸気処理による薄膜単結晶と電子光デバイス作製を予定していたが、(1)に関しては、バーコート法および接種凍結法により良好な分子配列薄膜の作製に成功し、さらに、X線構造解析により分子パッキング状態の評価も達成できた。(2)に関しては、キャリア移動度の温度依存性に関して、Time of Flight法、Photo-CELIV法による評価とDFT計算による結果との比較を行い有益な知見が得られている。(3)に関しても、溶媒蒸気処理により極めて結晶性の良好な単結晶薄膜を得ることに成功し、トランジスタを作製し移動度の評価も行った。以上のように、当初計画に沿って、順調に研究が進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究をさらに進めることに加えて、分子内の側鎖の分子間相互作用に及ぼす効果を明らかにして、ソフトクリスタル状態の実現に分子の液晶性と結晶性のバランスが重要であるかどうかを検証していく。さらに、結晶方位の制御された単結晶薄膜を用いて、理論的に予想されているキャリア移動度を有するトランジスタの実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年度の研究計画は概ね予定通り進展したが、当初実施を予定していた分子配向装置の改良が、当初予想していた以上に分子配向が順調に実現されたため、本年度中には実施しなかった。したがって、改良に必要な部品類の購入を行わなかったため残額が生じた。また、関連して、上記装置の改良の補助にかかる人件費も使用しなかったが、平成30年度 に改良を実施するため執行予定としている。 (使用計画) 当該装置の改良は平成30年度に入ってから実施し、より配向性の高い単結晶薄膜の作製を目指し、本研究の目標の達成を目指す。従って、平成30年度において改良部品を購入する予定であり、補助に係る人件費も必要となる予定である。
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