研究課題/領域番号 |
17K18883
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
石川 史太郎 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (60456994)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 高温・高圧合成 / ダイヤモンド / ドーピング / ナノ多結晶 |
研究実績の概要 |
本研究では、優れた半導体としての可能性を有するダイヤモンドの電子材料応用に向けた物性制御に取り組んでいる。愛媛大学独自の高温・高圧合成手法を用いることで可能になる電子材料ダイヤモンド合成技術確立を目的として、平成30年度はこれまで取り組んだ各種の取り組みの中で最も有望であったイオン注入と高温・高圧印加を組み合わせた試料作製と、その条件確立 に取り組んだ。 化学気相堆積(CVD)法で作製された市販の単結晶ダイヤモンド表面に将来のn型化を見据えたPをイオン注入し、ナノ多結晶ダイヤモンド合成条件となる2300℃、15GPaの高温・高圧印加を行った。昨年までの結果では、高温・高圧印加によってイオン注入時に失われた試料表面の結晶性が回復、エピタキシャル成長が発現すること、さらに特異なピラミッド状の微細構造が現れるとともに、微細構造が無い平坦な部位では想定した不純物が適切に保持されていることが判明していた。 本年度は、イオン注入時のP注入濃度や注入時の温度、その後の高温・高圧印加時の温度・圧力条件について詳細に検討を行った。その結果、イオン注入条件と温度・圧力条件に依存したダイヤモンド内部のP濃度およびプロファイルが変化すること、さらにはこれらの処理を通して発生する大気中不純物の混入量を制御できることを見出した。 さらに得られた実験手法を用いて量子発行体として期待されるSn-V複合欠陥を有するダイヤモンドの合成を試みたところ、従来報告と同様の発光スペクトルが得られ、本研究の取り組みが量子発行体の開発にも有望な展望が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)ダイヤモンドの導電性制御、n型半導体化を目指してイオン注入によるPドーピングとその後の高温・高圧合成を行い、それぞれの実施条件について検討を行った。イオン注入では注入時の基板温度について検討を行った。室温および高温加熱化でイオン注入を行ったところ、高温加熱化でイオン注入を行った試料ではPの不純物濃度が当初想定通り保持され、その他の大気環境中の元素の濃度がPよりも2桁以上低い濃度で得られた。さらにイオン注入後の高温・高圧印加条件について検討したところ、より高温・高圧で保持した試料で大気環境由来の不純物濃度が減少する傾向が得られた。この結果は導電性制御に向けて有望であると考えている。
2)Snを導入したダイヤモンドでは、量子発光体として期待されるSn-Vカラーセンターの実現が高温・高圧印加によって実現できることが報告されている。Sn-Vカラーセンターは基底状態のエネルギー分裂幅が非常に広く、長いスピンコヒーレンス時間を得ることができる。Snをドーピングしたダイヤモンドに2300℃、15GPaの高温・高圧条件を印加したところ、10Kの測定温度で従来報告と同様の発光スペクトルを有するダイヤモンドが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
n型化を目指したPドーピングにおいては、P濃度の制御と他元素の混入を抑制する合成条件を見出しつつある。より詳細なイオン注入条件、高温・高圧印加条件の検討による不純物濃度の制御技術を確立していくとともに、実際の導電性との相関を今後検討していく。 Sn-Vカラーセンターに関する研究では、合成試料より得られた低温におけるフォトルミネッセンススペクトルのピーク位置、形状がほぼ従来報告と合致しているものの、スピン緩和時間などの詳細の検討には至っていない。より高効率な発光試料の合成技術を構築していくとともに、スピンコヒーレンス時間の評価にも展開していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
イオン注入を行ったCVDダイヤモンドへの高温・高圧印加を用いた実験が当初想定よりも有望であったため、そのため実験計画変更が生じている。研究で目標としていたP不純物の導入と高品質な結晶への変換が実現されたため、試料合成に係る基盤技術の構築は着実に進んでいる。一方、素材として所望の試料が得られた後に予定していた電気特性の検討には着手が遅れることとなり、基幹を延長して次年度に実験を行うこととなった。次年度電気的特性について詳細に検討し、デバイス作製に必要となる導電性が得られた場合、最終目的であるデバイス作製へと研究を進める。
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