研究課題/領域番号 |
17K18892
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
葛西 伸哉 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主幹研究員 (20378855)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 磁化ダイナミクス |
研究実績の概要 |
現状の人工知能技術は大型計算機と巨大データベースを使った巨大クラウドシステムによるディープラーニングによって担われているが、今後の更なる計算コストの増大を打破するにはパラダイムシフトが不可欠である。生体の脳や神経系を模倣したニューロコンピューティングは現行ノイマン型とは異なり、ディープランニング、画像認識、画像再構成等の計算コストを大幅に低減できると期待されている。スピントロニクス発振素子はGHz帯域と高い発振周波数を有しており、これを用いることで高速演算可能なニューロコンピューティング機能の実現が期待される。 本研究では、入出力分離のための素子構造の多端子化、素子自身へのメモリ機能の付与、およびモードロック機能の提供という三つの課題の解決を通して、スピントロニクス発振素子を用いたニューロコンピューティング応用のための基盤を構築する。当該年度は、多端子化を実現するために必要な各要素技術の構築を行った。磁化ダイナミクスの高効率な励起手法として有効であるスピンホール効果について、その定量評価手法を検討するとともに、高効率なスピン注入を可能とする強磁性金属・重金属ヘテロ接合について検証を行った。特にCoFeBにおいては、下地層によって結晶化プロセスが全く異なることを明らかとした。また、自励発振素子を構築するうえで重要となる微細加工技術を構築し、最小径30nm以下のナノ構造素子の実現が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、演算機能を実現するために必要な材料研究および微細加工技術の構築を行った。スピンホール発振素子の高性能化において最も重要なのは、高いスピン注入効率を実現しうる強磁性金属・重金属接合の実現である。スピンホール誘起強磁性共鳴法は簡便にスピンホール効果の評価が可能な手法として広く用いられているが、反面でバイアス電流を印加した際のスペクトルの変調については十分に議論がなされていなかった。当該問題に対して、詳細な外部磁場方向依存性の評価から、異方性磁気抵抗効果の直流成分がスペクトル形状に影響を与えることを明らかとした。また、スピンホール効果によるスピン注入が高効率に行える強磁性金属材料としてCoFeBについて詳細な検討を行った。結果、高い出力を得るために必要なCoFeBの結晶化が、下地層に大きく影響を受けることを明らかとした。その他、高効率な発振を実現するために必要な微細加工については、30 nm以下のナノ構造素子を安定して作製する技術を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究によって、スピンホール発振素子を構築する準備は完了しており、当年度は素子特性の評価と性能向上に注力する。 ①単一素子における発振特性の評価 三次元微細加工技術を用いて、単磁区および磁気渦構造に対して発振特性の評価を行う。得られた知見を材料および素子構造へフィードバックすることで、高効率な自励発振素子の構築を行う。 ②複数素子における発振動特性の評価と非線形モードロック機能の実現 マグノニック結晶において自励発振を励起し、非線形モードロック機能の実現を狙う。自励発振素子に対して内部自由度を与えることでメモリ機能を実現し、新規スピントロニクス応用可能性を示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当差額は論文投稿料である。年度末に投稿した論文のアクセプトが間に合わず、次年度繰り越しとなったため。
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