研究課題/領域番号 |
17K18895
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
北島 正章 北海道大学, 工学研究院, 助教 (30777967)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | バクテリオファージ / 水道 / 病原細菌 / 単離 |
研究実績の概要 |
本研究の一年目である本年度は、水系感染性細菌の中でも特に世界中で甚大な健康被害を出している赤痢菌(Shigella)に感染する溶菌性バクテリオファージ(以下ファージ)を探索した。具体的には、流入下水試料を濃縮し、宿主細菌として赤痢菌を用いてファージを集積した後、スポットテストによりファージの存在を確認した。ファージが確認された試料についてプラーク単離を3回繰り返すことで、4株のファージを単離しライブラリ化することに成功した。これらの単離ファージ株を透過型顕微鏡(TEM)により観察したところ、形態学的特徴からMyoviridae科(1株)、Podoviridae科(1株)、Siphoviridae科(2株)に属すると判断された。また、単離ファージ株の宿主域を調べたところ、4株のうち3株は赤痢菌だけでなく大腸菌に対しても感染・溶菌能を示した。 次に、病原細菌制御に資する生物ツールとしてのファージの有効性を実証するため、ファージ感染による宿主細菌増殖抑制能を調べた。1種類のファージの単独感染では、一旦宿主細菌の増殖が抑制されるものの、その後増殖が認められた。これに対し、2種類のファージを感染させた場合には、宿主菌の増殖は認められず、長時間にわたり宿主菌増殖抑制効果が継続した。これは2種類のファージの共存により溶菌を免れる細菌細胞数が大幅に減少したためであると考えられた。 本研究の成果は、ファージを水中病原細菌制御に利用する上での課題を明らかにするとともに、ファージコンビネーションの有効性を示すものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(一年目)の到達目標は、環境試料から水中病原細菌に感染するファージを探索し、単離株ライブラリを構築することであった。実際には、赤痢菌について4株のファージ単離株を取得することに成功し、宿主域や形態学的特徴だけでなく宿主細菌増殖抑制能も評価できたことは、特筆すべき成果であると言える。また、複数種のファージを混合することで、一種類のファージの単独感染よりも高い宿主細菌増殖抑制効果が得られることも見出した。形態学的分類に加え、次世代シークエンシング技術を用いた全遺伝子配列解読に基づく分子生物学的分類を行うため、大量培養したファージからDNAを抽出・精製してシークエンシング解析に供している。 本研究ではレジオネラ菌も標的細菌としているが、先にファージ単離に成功している赤痢菌の場合と同様の方法論により環境試料からスポットテストによりファージの探索を進めているところである。 全体としては、当初の計画と同等またはそれ以上に順調に研究が進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度得られた赤痢菌ファージ単離株ライブラリに対し、次世代シークエンシング技術による全遺伝子配列解読の結果から、分子生物学的分類を行うとともにファージ遺伝子にコードされるデポリメラーゼ(バイオフィルムを構成するEPSの分解に寄与する酵素)を探索する。単離ファージ株の生物学的特性をより詳細に解析するとともに、バイオフィルムに浸透性を有する(EPSを分解可能な)ファージを見出すことを目指す。 続いて、実験室内で環境中での存在状況を模擬した条件(すなわち水中浮遊状態およびバイオフィルム)の宿主病原細菌を準備し、単離したファージがそれぞれの状態の細菌に対して示す溶菌能を明らかにする。低温(4度)から高温(44度)(それぞれ冬季と夏季の水道配水管内の環境を模擬)までの温度域における感染・溶菌能を評価し、ファージ活性の温度依存性を明らかにする。単離株ライブラリ中のファージの溶菌能を比較し、水道水中の病原性細菌制御という目的での実用性を有するバクテリオファージを見出す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究が順調に進捗しており、計画よりも少ないサンプル解析数および期間でファージ単離株が得られた。そのため、当初の見積もりよりも少ない費用(物品費・謝金)で単離株ライブラリの構築ができた。次年度には、さらにライブラリを充実させるため次年度使用額相当分を消耗品費として使用してファージの探索を進めるとともに、より費用を要する次世代シークエンシングによる塩基配列解読に使用する予定である。
|