バングラデシュでは、Rajishahi管区Loknathpur村において、パイロットスケール(150 L/day)のヒ素除去プラントを現地NGOの協力を得て運転した。現地ではヒ素濃度が約1000 ug/Lと非常に高く、鉄電極を陽極に用いた電解装置を運転した。鉄を電極に用いることの複雑さを解消するために、電解槽の隔膜には多孔板を用いた。多孔板は厚さ5mmの板に1.2mm径の穴を多数明けたものである。厚みがあるため乱流拡散が抑制され、流れが無いと陽極と陰極の溶液は混ざらない。一方、溶液は孔を通過することができる。陽極側に鉄電極を設置し、原液を通じると、溶液中に鉄が溶解し、多孔板の孔を抜けて陰極に達する。陰極では鉄の沈殿の熟成が進行し、ヒ素が除去される。処理水には鉄の沈殿が含まれるが数時間置いておくと沈殿は沈降し、ろ過しなくとも飲用可能である。処理水のヒ素濃度は5 ug/L以下であった。 Ⅲ価とV価のヒ素をIC-ICP-MS法で分離定量した。上記装置では、処理水に毒性の高いⅢ価のヒ素は含まれていなかった。 温泉排水の処理に関しても同様の多孔板を用いた装置を、下呂温泉組合の協力を得て運転した。ただし、陽極の電極には白金を用いた。処理量は100 L/dayである。また、下呂温泉はマグネシウムを含まないため、マグネシウム源として炭酸マグネシウムスラリーを添加した。以前は溶解のしやすさから塩化マグネシウムを用いていたが、塩化マグネシウムを用いると、陰極においてマグネシウムを沈殿させるために必要なpH10以上が得られない場合があったため炭酸マグネシウムに変更した。このことにより、フッ素は原水の約17 mg/Lから、一律排水基準の8 mg/L以下にまで低下させることができた。また、ヒ素も110 ug/Lから10 ug/L以下にまで低下させることができた。
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