本研究では、鉄筋コンクリート(以下、RC)造建物の劣化度合いを的確に評価した新たな構造性能指標を提案することを最終目標とし、(a)既存建物の耐震診断における経年指標および構造耐震指標データベースの構築、(b)変状したRC造建物の材料、要素、および部材レベルでの力学性能の確認を2つの主たる研究内容として進めてきたが、特に(b)に関して、電食試験では性能評価に耐え得る精度を持った実験を実施することが難しいことから、(c)鉄筋腐食ひび割れを短時間に精度良く模擬できる方法の確認とともに、(d)劣化した実構造物から採取した腐食鉄筋の性能確認実験を推し進めた。 (c)に関して、破砕剤を充填したアルミパイプを実験に用い、部材試験体でのひび割れの発生状況の確認、ひび割れたコンクリートにおける鉄筋との付着実験、および繰返し逆対称曲げせん断加力実験を行った。その結果、破砕剤充填後の経過時間の増大にともなってひび割れ幅が大きくなり、部材内部断面にコーナースプリット型およびサイドスプリット型のひび割れが発生すること、表面ひび割れ幅が付着強度に及ぼす影響は大きく、ひび割れ幅が0.3mmを超えると付着強度が半減すること、腐食ひび割れは部材の曲げ耐力に大きな影響は及ぼさないが、降伏までの剛性および最大耐力時の部材角に影響を及ぼすことが明らかとなった。 (d)に関して、沖縄本島の6箇所の解体現場について、建築物の劣化状況調査と採取したコンクリート片の塩分分析、断面積減少率の測定を行い、劣化状況と塩分濃度、鉄筋腐食の関係性について検討した。また、解体現場より採取した腐食を有する異形鉄筋D19の座屈試験を行った。実験の結果、腐食鉄筋の最小断面積減少率により座屈強度や応力-歪関係が予測できることが再確認できた。
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