研究課題/領域番号 |
17K18930
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
衣笠 秀行 東京理科大学, 理工学部建築学科, 教授 (00224999)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 限界機能停止期間 / 収益用不動産 / 生産継続性能 / 対機能維持耐震性能 / 対人命保全耐震性能 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、事業継続性の観点から要求される耐震性能レベル(対機能維持耐震性能)を、建築基準法が要求する安全性に対する耐震性能レベル(対人命保全耐震性)との関係で明確化すことにある。このため本年度は以下のような研究を行った。 収益用不動産を対象として、投資判断指標として一般的によく使用されているNPV(正味現在価値)の観点から導かれる限界補修期間Tmax(事業継続性を評価する際の重要要因)を、J-REIT所有の1269物件について算出した。また、これを既往の研究において示されている兵庫県南部地震で生じた補修期間と比較した。この結果、建物の規模が大きくなるほど補修期間が限界値Tmaxを上回り易くなる傾向が見出され、この原因として次の2つのことが考察された。①投資家は収益効率よりも投資で得られる全体の量を重要視する傾向にあること。②同じ損傷レベルでも建物規模が大きくなるに伴い補修期間が増大するが、この傾向が損傷の大きい中破・大破において顕著であること。 また、地震後の建物機能停止が原因で発生する付加価値生産の減少を抑え,社会全体の生産活動を守るという観点から、建物に許容される限界機能停止期間を定義し、これに対応する耐震性(対機能維持耐震性能)を算出した。得られた対機能維持耐震性能を、建築基準法が要求する安全性に対する耐震性能レベル(対人命保全耐震性)と比較した。 この結果、対人命保全耐震性能は確保されているが、対機能維持耐震性能が十分ではないケースが起こりえることを示すことができた。特に、①社会的に重要,②規模が大きい,③靭性型、の建物は対人命保全耐震性能に比べ対機能維持耐震性能が小さくなり易いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の遂行において、「修復費用」と「修復時間」との関係性を把握することが重要である。困難と思われたが、兵庫県南部地震における、両者のデータを分析したところ、明確な関係性を見いだすこそができ、かつ、理論的な説明付けにも成功した。この点が研究を順調に進めることができたもっとも大きな理由である。 申請書に挙げた次の事項に沿って順調に研究が進められている。 1.公開されている不動産データをもとに、大地震時に建物に許容される限界機能停止時間を推定する。 2.この限界から要求される耐震性能レベル(対機能維持耐震性能)を、建築基準法が要求する安全性に対する耐震性能レベル(対人命保全耐震性)との関係で明確化する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究(平成29年度の研究)で、申請書の「研究期間内に明らかにすること」で述べた研究成果が得られる目処が明確についたと考えている。平成30年度は以下の3項目についてさらに研究を深めたい。 1.事業継続性の観点から建物経営上の限界機能停止時間を算出し、建物の用途・立地条件・規模等との関係性を明らかにする。 2.架構建物モデルの地震応答解析から、「建物の耐震性」と「修復費用」・「修復時間」との関係性を分析する。 3.これら成果をもとに事業継続性の観点から要求される耐震性能レベルおよびその性能の特性を明らかにする
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度において本研究は、順調に成果を挙げることができた。本研究の遂行において、「修復費用」と「修復時間」との関係性を把握することが最も困難と思われたが、予想よりも容易に両者の関係性を見いだすことができ、これに伴い、研究費の支出も効率的に行うことができた。このため、予定を上回る成果が得られたが、予算支出は余裕をもったものとなり、「次年度使用額」が生じる結果となった。 平成30年度は、順調に進んだ平成29年度の研究成果をもとに、さらに精力的に研究を次の項目で展開する。この目的のために「次年度使用額」を有効的に活用し、さらなる成果を挙げたいと考えている。 1.事業継続性の観点から建物経営上の限界機能停止時間を算出し、建物の用途・立地条件・規模等との関係性を明らかにする。 2.架構建物モデルの地震応答解析から、「建物の耐震性」と「修復費用」・「修復時間」との関係性を分析する。
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