研究課題/領域番号 |
17K18933
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研究機関 | 岐阜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
今田 太一郎 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 准教授(移行) (40300579)
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研究分担者 |
青木 哲 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (80321438)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 環境刺激装置 / ピアジェの認知理論 / Scheme・Schema / 重症心身障がい児 / 場面 / 多重刺激 / 温湿度環境 |
研究実績の概要 |
これまで、障がい児が多重刺激を通してシーンを体験する。という視点で、研究を進めてきた。しかし、研究データの分析、対象施設とのミーティングを通して、シーンの体験は、単に感情を喚起する機会であるだけでなく、子どもの環境に対する認知的発達と深く結びついているという、気づきがあった。そこで、平成29年度は、以下に示す5つの視点で研究を進めた。 1)ピアジェの発達理論は、子供が認知機能を発達させるメカニズムについて、生物学、認知科学、心理学にわたる分野の知識に基づき、ダイナミックに発達過程を捉えるものであり、重症児の発達もまた、ピアジェの理論との比較を通して捉えることが可能であると考えられる。そこで、ピアジェの発達理論を元に、発達モデルの構築を行った。 2)様々な刺激を作用させ、重症児がその体験を通して、あるシーンを理解し、さらに複数のシーンの体験によって、シーンに共通する要素から、様々な発達レベルに対応したシェマ、シェムを得るための基盤として、外部環境を対象として観測者を取り巻く刺激環境の調査分析を行い、公園などの環境における刺激の種類、配置パターンを把握した。 3)重症児に適した施設内環境について、知見を得るため、施設内の温湿度環境の調査・分析を行い、温湿度環境の特性について把握した。 4)これまで、多重刺激床に様々な刺激を組み込むことで、多重刺激環境を実現しょうとしていたが、上記の研究に基づいて、概念を拡張し、対象施設内において多重刺激を作用させ、ある意味を持ったシーンの体験を通して、重症児の認知能力の発達を促すための多重刺激装置を立案した。 5)研究チームと施設スタッフ間の議論を通した研究のプロセスについて分析を行い、双方の知識の共有・発見を通したインタラクティブなプロセスであることを明らかにした。 6)上記1)、2)~5)について、関係学会、研究会において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進行は概ね順調であるといえるが、その内容は、研究で得られた知見に基づいて再構築を行った。 平成29年度は、多重刺激床を核とした装置を完成させ、臨床実験段階に進む予定であったが、研究データおよびそれに基づく、研究仮説についての施設スタッフとの議論を通じて、シーンの体験は、単に感情を喚起する機会であるだけでなく、子どもの環境に対する認知的発達と深く結びついているのではないかという、気づきがあった。そのため、当初の研究計画を変更し、新たに、多重刺激装置という概念を設定し、いかに述べるように、重症児の認知発達過程に踏み込んだ研究として再構築を行った。 そこで、平成29年度は、ピアジェの発達理論に基づいて、重症児の認知の発達過程に関する仮説的なモデルを構築すること。公園や都市空間などについての調査を通して、環境の観測者(ここでは重症児)に対してシーンを作り出し、シェム、シェマの発達を促す環境刺激の配置・構成について把握すること。また、対象施設内で行われている様々な出来事も重症児の認知の発達に結びつけるために、多重刺激床を核とした研究コンセプトを、多重刺激床を一部として含みながら、施設環境全体も統合した多重刺激装置という研究コンセプトに拡張した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究の中で得られた知見を基に、本研究は理論的再構築を図っている。平成30年度は、新たな枠組みのもとに研究を進めていく。具体的には、環境刺激によるシェマ・シェムの発達、シェム・シェマの発達と連動する認知メカニズム自体の発達の仮説を踏まえ、施設全体の刺激環境を捉え、施設環境の中で起きる出来事に含まれる様々な刺激と結びついた環境刺激装置の概念に基づくシーンのデザインを検討する。これらを実現するために、以下の研究を進める。 1)子どもの発達過程と対応したシェム・シェマの発達に結びつく、温湿度、光・音環境、コミュニケーションを含む様々な出来事を把握するため研究対象施設において実態調査を行う。2)平成29年度調査で行った公園などを含む外部空間調査について前年度の結果を踏まえて、より広汎な調査対象について観測者、刺激要素、外部環境、刺激の配置・構成に関して、再調査を行い、データを精緻化する。3)発達理論と結びついたシェム・シェマの発達を促す環境刺激装置の操作方法について、対象施設とともに検討を進める。 本研究における認知機能の発達過程・到達した発達段階は、刺激を受ける主体の様々な刺激に対する反応行為の観察によって、確かめることが必要であると考えられる。しかし、本研究の対象とする重症心身障がい児施設「S」の入所者は特に症状が重い重症児であり、発達過程・発達段階を確かめることが困難であることが想定される。そこで、本年度後半、もしくは次年度当初に、施設「S」で一定の刺激環境を確立したのちに、より症状の軽い入所者を対象とする施設において、臨床実験を行うことも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、平成29年度は、多重刺激装置を作成して臨床実験に臨む予定であったが、研究を進める中で、ピアジェの発達理論の導入、多重刺激装置の概念について施設環境全体を取り込んだ環境刺激装置というより大きな概念への拡張という研究の枠組みの再構築を行ったため、臨床実験には至らなかった。上記の変更に伴い、平成29年度予算で予定した臨床実験に向けた装置のデザイン・開発及び、装置開発に必要とするアプリケーション購入などに係る経費を平成29年度は使用しなかったため、次年度使用額が生じた。しかし、平成30年度は、前年度に拡張した枠組みに基づき、研究を当該対象施設、新たな対象施設を含めた臨床実験にまで進める予定であり、そこで次年度使用額を振り当てる予定である。 具体的には、多重刺激床など環境刺激装置を構成する要素の設計に必要とする3次元に対応したキャドソフト、ダンボールやカッターなど多重刺激床を作成するための物品、材料、設計・関係者との設計案の検討に使用するコンピュータ、プロジェクタを購入することを計画している。
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