本研究では、重症心身障がい児入所施設岐阜県総合医療センター「すこやか」を対象に実践的研究として、施設環境における環境刺激要素の把握、施設環境のもとでの認知の発達のシミュレーションを行ってきた。具体的には、2017年度に、ダンボールを用い、傾斜を持たせた床(多重刺激床・Multiple Stimulus Floor)に様々な刺激を組み込んだ装置について検討を行った。2018年度はこの多重刺激床の概念をピアジェの認知理論を土台にして環境刺激の体験を認知の発達に結びつけ、また、既存の生活環境に存在する生活刺激をも取り込んだ多重刺激装置(Environmental Manipulation Device)へと発展させた。更に重症児の生活環境に既に存在する環境刺激を分析し、施設環境の中で起こりうる発達についてシミュレーションを行い、得られた知見を元に、既存環境に新たな環境刺激を埋め込むことで、生活環境自体を認知の発達を促す環境刺激装置として機能させる可能性を明らかにした。また、重度の知的障がい、身体的障がいが重複し、環境刺激に対する明確なリアクションがないことが多い重症児の生活環境の在り方を検討する枠組みとして重症児に常に寄り添う医療福祉関係者と研究者のインタラクティブな研究・実践のプロセスの有効性について示した。 しかし、対象施設の入所者の刺激に対する反応がほとんどなく、実証段階に研究を進めるのが困難であることが分かった。また、重症児の多くが、自宅介護を中心として、デイケアを利用しており、施設にとどまらず自宅も含めた生活環境の総体が環境刺激装置化されることが重要であると考え、重症心身障がい児を対象に含み病院を拠点としてデイケアも実施する訪問介護施設と連携し、具体的事例について、実践的研究を進める予定である。
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